【感想・ネタバレ】イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学のレビュー

あらすじ

現在、米国を中心に世界では「イノベーションの経済学・経営学」に関する研究が盛んである。起業家はいかにしてどこから生まれるのか、なぜ起業家は特定の地域に集積するのか、科学技術はベンチャー企業の育成にいかにして役立つのか、といった実務に役立つ疑問について、さまざまな研究成果が生まれている。本書では、特に科学技術による新事業創造について多く扱うが、それは日本企業が、以前ほど科学技術を儲けに結びつけられなくなってきているという問題意識がある。

本書では、シリコンバレー型にとどまらない先端的なイノベーションや起業の研究について、32本の海外の学術論文(定量論文)を具体的に読み解きながら、そのエッセンスを紹介していく。ビジネスの現場では、アカデミックな知見とエビデンスを実務にどう役立てるのかという「科学的思考法」がますます重視されてきている。論文の探し方から情報の読み解き方までを学ぶ一冊としても有用である。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

私が2005年ごろにこんな研究したいな~と思っていたことを見事に具現化されたような内容。

自分が定量分析、実証研究の方法を実務家教員として教えるときにいいテキストになるものがないかと思って購入した本。大当たりだった。これから実証研究の方法を学ぶ観点でとてもよい書籍だと思う。13章はワークシートにできそう。トピックもとても私にとって興味深い内容だった。

特に9章以降が私には超おもしろかった。イノベーションの源泉や、促進要因はどこにあるのかについて考えさせてくれる内容が豊富に論じられている。スターサイエンティスト(実際に5章を読んでいただければ定義が分かる)の話は、未来に希望を感じる内容だった。素敵な考察ですねぇ~。やっぱり天才ってやさしんだなぁ、と。後継者育てようとしたり、貢献しようという意識が高くて。他にもインセンティブやサイエンティストの嗜好性とキャリア選択の話など興味深い話が目白押し。1か所12章の図表12-17で「プロトタイプの完成」から「VCから投資を受ける」のパスを図は「-」負の影響としているけど、これって「+」正の影響なんじゃないかな。VCにとってのリスクを下げる結果、VCからの投資は増える、という説明だと思うんだけど。

統計のバイアスについても触れていたが、統計的に扱うこと自体の課題についても注意する必要があると学ばせてもらえた。ベンチャーキャピタルの重要性についてスティーブン・カプランの論文を議論する章(9章)があるのだけど(この論文のタイトルがとってもファンキー(笑))、このリサーチクエスチョンが「投資は、人を見るべきか、ビジネスアイデアを見るべきか」

学者の論文から出た現状の答えは、「ビジネスアイデアを見る」方が勝るらしい。そして本文にも、実務家からは「人を見るべき」という見解が多そうで、この結果に違和感があるだろう、外的妥当性の検証を積み重ねることが必要だという内容の指摘がある。はい、その通りだと思います。この結果に対する私の考察は以下の通り。

統計的に情報を扱える、すなわちある程度の量があるデータが入手できた上での分析から導かれている答えであって、そもそも良いビジネスアイデアがそうそう簡単に出てくるものでもないという視点が抜けているのではないかと考える。そりゃよいアイデア(誰が売っても売れるようなアイデア)が出てくれば、それが統計的にはよしとする答えが出やすいだろう。属人性に近くなるほど、ベストプラクティスを導出するのに複雑さや成果が出るまでの階層性が存在するはずだから。そうなってしまうと、定量分析の限界で質的研究を登場させるしかないかもしれない。人間は、なんとなくその複雑さや階層性の重要性を肌感覚で理解しているから違和感があるのではないかと思う。このあたりが人にはできてAIにはできない話にもつながるのかもしれない。

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2023年07月27日

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