【感想・ネタバレ】蓬莱島余談 台湾・客船紀行集のレビュー

あらすじ

台湾はいつでも小鳥が啼いている。お正月に朝顔が咲き出す。まあ一ぺん来て御覧なさい――一九三九年十一月、精糖会社専務の友人に招かれ、鉄路で縦断した台湾紀行をはじめ、日本郵船の嘱託として主宰した船上座談会など、太平洋戦争開戦前夜の客船周遊記を集成。文庫オリジナル。
〈解説〉川本三郎

(目次より)

不心得/大和丸/東支那海/屏東の蕃屋/小列車/基隆の結滞/時化/砂糖黍/玄冬観桜の宴/バナナの菓子/蟻と砂糖/戻り道/船の御馳走/航路案内/迎暑/神風機余録/蕃さんと私/

当世漫語(昭和十四年十二月)/蓬莱島余談(昭和十五年七月)

波光漫筆 鎌倉丸周遊ノ一/入船の記 鎌倉丸周遊ノ二/三ノ宮の乞食 鎌倉丸周遊ノ三
/風穴 鎌倉丸周遊ノ四/山火事/流民/岸壁の浪枕/出船の記/門司の八幡丸/タンタルス/波のうねうね

新造/婦人接待係/沖の稲妻/虎を描いて/狗に類する/しっぽり濡るる
〈解説〉川本三郎

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Posted by ブクログ

ネタバレ

内田百閒が日本郵船の顧問だった時に横浜、神戸、下関等を船で行き来した際の随筆を編集したもの。前半は台湾の製糖会社重役の知人を訪ねて9日間訪台した紀行文。当時の日本人の台湾に対する見方が素直に読み取れる。後半では郵船が誇る豪華客船の一等船室やレストランの様子もよくわかる。旅客機が一般化する前、客船黄金期の旅に同行しちるかのような不思議な感覚を得た。「郵船秩父丸」という随筆が特に洒脱で笑った。船旅は良いなと思った。

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2023年09月30日

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『阿呆列車』の百閒先生が、日本郵船の嘱託職員としての乗船三昧の日々を綴ったエッセイ集。

乗車体験を綴らせたら当代随一だったが、その力は乗船体験においても劣ることなく発揮されている。
文人として畏まったところが一切なく、あくまで一人の人間として、そして失礼ながら決して立派ではなくどちらかというとスノッブ的な生き方をしている人間が感じることを一切装飾なく等身大に語る。
今でも作者の等身大の目線で綴られるエッセイやら漫画はごまんとある。
それでも、
・大した下調べも裏取りもせずに、自分にあてはめて適当に推測する虚脱感
・虚脱の中でもリアリティを感じさせる場面を切り取るジャーナリズム
・時折はっとさせられるような美しいセンテンス
を絶妙に織り交ぜられる作家を、私は内田百閒以外知らない。

本当にどうしようもない人間は、こんなに「どうしようもないなあ」と思わせるような文章は決して書けない。その、作り出されたどうしようもない人間像こそが私たちが愛する内田百閒像であり、それを生み出したかの作家の実力なのであると思うと、私はため息しか出ない。頭良すぎ。

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2024年03月02日

Posted by ブクログ

台湾は良かった、もう一度行きたくて夢に見るとまで書いている。
途中で持病が出て苦しかったはずだが・・・招待してくれた、お砂糖会社の重役さんへの気遣いか。

船で台湾の基隆(キールン)に着き、そこから鉄道で、明治精糖のある蕃仔田(ばんしでん)駅に着くのだが、特に用事もないのに、終点まで乗ってみて、海を見て折り返してくる鉄オタ百閒先生である。

日本郵船の嘱託を務めていた関係か、何度も船旅をしている。
横浜、神戸間が多い。
豪華客船の旅である。
食事代は船賃の中に含まれているので、ご馳走を食べ放題なのだが、麦酒をお腹に入れたい百閒先生は、そのためにお腹を空けておく。(アルコールは有料らしい)

船旅の紀行文は、昭和41年頃の発表のものが多い。
日本が一番調子に乗っていた頃だ。良い意味でも悪い意味でも。
日本人は、最後のいい思いをしていた。
しかし、外食では麦酒は一人1本と制限されたとか、航路が変更になったり閉鎖されたりしたというちょっとした描写に、戦争に転がり落ちていく時代を感じる。
言及されていないが、文筆業の人たちは書く内容に頭を悩ませていたことだろう。
海に関しての発言で、「日本の海は広がった」と言っているのは、ご時世的に一般的な考え方だったのか、心からそう思っていたのかは、はかり難い。

船旅での、ちょっとした「こんなはずじゃなかった」エピソードがいくつかあって、ユーモラス。
船から見る、さまざまな波の観察と考察が興味深かった。
戦後の1963年発表のエッセイでも、同じ41年の船旅に関するものを収録している。
日本の客船の黄金時代だった。
これは、戦後だから書けたエピソードだと思うものもあり、政府がローマ字表記を変更したせいで、秩父丸が鎌倉丸と名前を変えなくてはいけなくなった話が面白かった。

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2023年09月29日

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日本郵船の嘱託時代に同社の客船で台湾旅行をした際の寄港文集。
相変わらず百閒先生は無邪気だが、台湾への渡航も含めて無邪気でいられた時代の記録として読めるかもしれない。

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2025年01月14日

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編集付記にあるとおり、本書は著者の台湾紀行と日本郵船時代の船旅にまつわるエッセイを独自に編集し一冊とした文庫オリジナル作品である。太平洋戦争開戦前夜の客船周遊記は、出際に神戸で首尾よく麦酒が飲めるかどうかという話で始まる。結滞の発作をかかえたままの約9日間の台湾紀行には、観光名所的な紹介はあまりないが、時代と土地の空気がしっかりと感じられる。
「だから内証だが、台湾はいい所だと思った。非常にいい風が吹く。」

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2022年06月03日

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百閒が台湾を旅したときの紀行文かと思いきや、ほとんど台湾は出てこない(笑)。台湾が恋しいときは別の本を読むとして、この本では百閒節を味わえばいいと思う。

旅行が特に好きじゃない百閒は、目的地に着いても下船しないし、頭の中は常に麦酒(ビール)のことでいっぱい。だから話は船内での同行人やボイ(ボーイ)とのやりとりが大半を占めている。

大きい船をつくって他国を圧倒し、領土を広げることが正義だった時代の船の様子や、接客の作法などが興味深い。

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2022年04月04日

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客船の体験を述べた随筆が中心ですが「台湾紀行」「国内のクルージング」「日本郵船の客船を使って行われた文士達の船上座談会」ーーという話が収録されてます。
日本郵船の嘱託員として働いていた時期が時期だけに、太平洋戦争開戦前の気配を感じつつ、でも飄々とクルージングと豪華な食事と麦酒を堪能してる百閒先生の筆致は素敵です。
たまに、その飄々としている描写の中で一瞬、怪異と繋がったかのようにゾッとする表現がしれっと混ざるのもまた味わい深い……。

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2022年03月17日

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一冊まるごと台湾への船旅の話かと思ったら、意外とその分量は少なく、あとは国内での船旅の様子だった。当時の日本の雰囲気が伝わってきたし、百閒さんの飄々と悠々として率直で人を食った感じの、他人とは一味違う行動が面白かった。船旅がしてみたくなった。

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2022年03月07日

Posted by ブクログ

随筆一つ一つは当然百間らしさは出ているのだか、通して読むと内容が重複する部分が多く、編集部が台湾つながりと旅客つながりの随筆を手当たり次第にまとめた、という感じが否めない。

他の方が書かれているが、台湾には一度十日間程行っただけだし、旅客も日本郵船の顧問であった割には乗船回数は多くはない。百間は飛行機にも縁があるわけだし、鉄道以外の乗り物紀行集、とより間口を広げれば良かったのに、と感じた。

喜久屋書店阿倍野店にて購入。

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2022年02月17日

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