あらすじ
何かを断たなければ、生きていけない。
父は、女にだらしのない鍛冶職人だった。物心ついたとき、すでに母はいなかった。綺麗な着物を着せたる、という父の誘うような言葉に乗じて、12歳だった彼女は、気が付けば菜乃葉の名で大阪にて舞妓見習いをさせられていた。
14歳で旦那への腹いせのようにして小指を切り落としたことで世間の耳目を集め、ブロマイドは飛ぶように売れた。花柳界から退いたあとも、社長夫人、映画女優と華やいだ世界に身を置いた。
それでも、彼女の心が定まることはなかった。38歳、仏門を叩いた。
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Posted by ブクログ
すごい壮絶な人生を送った人
正直、高岡智照尼さんは知らなかったけど
こんなにも、普通の人とはかけ離れた生活をしてた人がいたのかと驚きました。
どこで人生が狂ったのか?
と何度か自問したと思う。
幼少期に母親を亡くし父親は行方不明
叔母の家に引き取られる。
この時点で、叔母にいじめられとか普通ならあるが、それがなかったのが幸い。
叔母の娘は駆け落ち、息子は徴兵
叔母との質素や二人の生活が始まる。
突然、父親が現れ見たこともない綺麗な着物を見せられ、そそのかされ芸妓として売られる。
叔母に別れを告げることもなく、家を出てしまう。
ここからが人生の狂う始まりだったのか?
その後、浮気をしたと疑われ14歳で小指を切り落とし身の潔白を証明するために小指を送りつけたり。
歌舞伎役者と1日だけの恋をしたり
妾となったり
社長夫人
同性との恋
映画女優
自殺未遂
波乱な人生の後は、38歳で仏門へ
売れっ子芸妓が、仏門へ入るまでの壮絶過ぎる人生でした。
Posted by ブクログ
これほど、女の業というか、艱難辛苦の人生ってあるだろうか。
産みの母をすぐ亡くし、伯母に引き取れて貧しいながらも茶店で成長できていれば…と思わずにいられない。
きれいな着物を着られる、そんな子ども心につけこんで250円で芸姑に売ったろくでなしの父親。
顔立ちが良かったからか、男性の絶えない人気芸姑に。
左手の小指を自ら切ったというエピソードが有名みたいだけど、初恋に近い歌舞伎役者との一回の逢瀬が忘れられなくて写真を手鏡に貼ってあったのを結婚する相手が見て嫉妬に狂い破談に。睦ごとの時に噛んでくれて大事な小指の先を切ってもう、なんとも思ってないと証明したかったのか。
でも、やはりそこまでするのは軌道を逸してる。
旦那になる(落籍させてくれる男)はみなやたら嫉妬深かったり、暴力を振るったりグズ野郎ばかり。
確かに大金を使って自分のものにし、渡米したり映画にも出演するという茶店をしてる人生だったら考えられない体験もできたわけだけど。
イギリス(学ぶために寄宿学校に入る)でのイルムガルドとの恋愛と別離。
帰国してからの主演女優としての映画出演。その時の相手役とも懇ろに。
顔立ちだけでなく、魅力的な人だったのだろう。
捨てる神あれば拾う神ありで、貧しいながらも自分の子と別け隔てなく育ててくれた伯母、原稿を買い続けてくれたり、引っ越しのお金も用立てくれた出版社の嶋中。
見返りなしに丁稚のように世話をしてくれる善三。
38歳で仏門に入ってからは心穏やに過ごせたんだろうか。
明治、昭和、平成、と生き抜き98歳で死去されたとのこと。
あの優しい伯母が「あんた、いままでようけ、がんばったなぁ」と迎えてくれたであろう。
同じく作家から出家した瀬戸内寂聴が書いた彼女のことを書いた「女徳」も気になる。
Posted by ブクログ
実在した人物「高岡智照尼」の半生を描いた小説。
12歳で父親に苦界に売られ、舞妓芸奴として時には身体を売り、14歳で失恋のけじめに小指を詰め、実業家の妾となり映画俳優となり、文章を書き始め、ついには出家する。
大正から昭和という時代において、女性はなんと生きづらかったのか。男たちの野蛮なこと。現代はすたれてしまったかのように思えるが、それでもシングルマザーの生きづらさが日本貧困化の象徴であるように、やはりまだまだ女性が生きづらい国であるということ。
俺たち男がしっかりしないと、きちんとしないと、いつまでも苦界は続いていくんだということ。「こういうの苦手」という気持ちは正直あるけれど、少しずつでも自分の行動や意識から変えれるところは改善していこうと思う。
Posted by ブクログ
高岡智照尼の得度するまでの人生。父親に売られてというのはよくある話だが、非常に美しかったので舞妓としてもてはやされ、プロマイドになったり女優をしたり、勿論男は次から次へと現れ毒婦とまで言われた。アメリカにまでいく波乱万丈のバイタリティ、運がいいのか悪いのか分からなくなってくる。
小指を切り落とすのも江戸時代じゃあるまいしと思うが、まだ14歳の舞妓なら仕方ないのかもしれない。男に流されているようで案外したたかに生きてある意味あっぱれである。
Posted by ブクログ
奈良の伯母の家で手伝いをしていた12歳の頃、道楽者の父親に連れられ、大阪で舞妓として売られてから…
気づけば、芸妓をし、見受け前に罵倒され自ら切った小指を差し出す。
その根性には、誰をも黙らせたのでは。
そこまでの数年でも壮絶な気がした。
それからも社長夫人になったものの、決して愛されることはなく、無理矢理映画女優にされたり…
とうとう、命を絶とうと自殺をはかる。
それでも楽に死なせてはくれない。
最後には、奈良の地に戻り、原稿を書いたり、句を詠んだりするが38歳で出家する。
短くも太くてとても濃い女としての流転の日々。
それは、美しさがそうさせたのか…。
美しいとは、罪なのか。
とても激しくて、苦しい生きかただと思った。