【感想・ネタバレ】須永朝彦小説選のレビュー

あらすじ

「一語の揺るぎもない美文、人工の言葉でできた小宇宙…」。須永朝彦を敬愛してやまない山尾悠子が遺された小説から25作品をセレクト。〈耽美小説の聖典〉と称された『就眠儀式』『天使』から、密かな注目を集めつつ単行本化を見なかった連作「聖家族」まで。吸血鬼、美少年、黒い森の古城…稀代の審美眼を有した異能の天才が描き出す官能と美の迷宮へようこそ!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2012年4月に廉価版「天使」を読んで以下のように書いた。
 *
もっともっと凄まじくおどろおどろしいものを想像していたのだが、意外にポップ。
にやりにやりと口元が緩んでしまう。
しかしまあ、それだけかとも思う。
薄い夕暮れの中にさまよう程度のもので、別の世界や遠いところへ奪取していかれるほどのものでもない、小品たち。
 *
その後アンソロジーで出会ったり、え、Twitterとかブログとかやってんのと驚いて時々覗くくらいで、いい読者ではなかった。
が、この2021年5月15日にご逝去され、なんと山尾悠子が編んだというからには、読まずばおれまい。
「就眠儀式」「天使」収録の諸作では執拗に吸血鬼志向が描かれ、その徹底ぶりは凄まじい。
というか作者が楽しんで書いている感じがする。それがいい。
山尾悠子の指摘や作者自身の文章にもあるが、なるほどショートショートの隆盛に合致していたんだな、と知る。
しかし星新一や筒井康隆やの潮流とは全然違う、むしろ掌編小説と呼びたい、彫琢ぶり。
多少長めの「悪霊の館」では、導入が映画「汚れなき悪戯」っぽいと思いきや「耳なし芳一」っぽくなり、しかも架空の書物を翻訳したというてい。
(やや無理矢理かもしれないが皆川博子が「死の泉」で行ったのと同種の)「企んで書く喜び」に満ちている。
そして「聖家族」連作は、確かにこれほどの出来を単行本にできなかったのは無念だったろう。
個人的には技巧極まれりの意味で中井英夫「とらんぷ譚」を思い出した。
また「聖家族Ⅳ――ナボコフ・マニアのために」からは佐藤亜紀「バルタザールの遍歴」も連想した。
この連作は読んでよかった。
で、最後に配置された「青い箱と銀色のお化け――架空迷走報復舌闘・大正文士同窓会」で、終始にやにや。
稲垣足穂が登場したときは、花火のバラバラッバッラッという音と光を感じた。
もちろん作中に「マグネシウムの光とともに」と書かれていたからだが、ここでもまた作者の「企みの愉しみ」が、読んでいて届いたからだと思う。
「文豪ストレイドッグス」だか「文豪とアルケミスト」だかに足穂も出してほしいかと言われたらうーんと言うが、同趣向の架空対談を書く作者……やはり楽しそう。
なんとなく難解な印象を抱いていた作者だが、こんなに綺羅綺羅しい小説を愉しみいっぱいで書いてくれたこと、そして山尾悠子が思いたっぷりに編んでくれたことに、感謝したい。
あー面白かった。

 (以下「就眠儀式」収録)
■契 Der Vertrag
■ぬばたまの Die Finsternis
■樅の木の下で Unter der Tanne
■R公の綴織画 Die Tapisserie des Herzogs von R.
■就眠儀式 Einschlaf-Zauber
■神聖羅馬帝国 Das heilige römische Reich deutscher Nationen
■森の彼方の地 Transylvania
 *(以下「天使」収録)
■天使Ⅰ
■天使Ⅱ
■天使Ⅲ
■木犀館殺人事件
■光と影
■エル・レリカリオ
■LES LILAS――リラの憶ひ出
 *(以下「悪霊の館」収録)
■月光浴
■銀毛狼皮
 *
■悪霊の館
■掌篇 滅紫篇
 *(以下単行本未収録)
■聖家族Ⅰ
■聖家族Ⅱ
■聖家族Ⅲ
■聖家族Ⅳ
 *(以下「世紀末少年誌」収録)
■蘭の祝福
 *(以下「胡蝶丸変化」より、単行本未収録)
■術競べ
 *(以下単行本未収録)
■青い箱と銀色のお化け――架空迷走報復舌闘・大正文士同窓会
 *
◇編者の言葉 山尾悠子  
◇解題 礒崎純一

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2021年10月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

旧仮名遣いがとても素敵な余韻を残す。
暗く美しく残酷な喜びに満ちた存在が書かれていて、うっとりと妖しい雰囲気に浸りながら読んだ。
永遠を生きるヴァンパイアが見目麗しく、同じくそんな青年を探し当てては仲間にしていく様子などは、いつまでも読んでいたくなる。
そのほか、人の形をしていながら人ではない、と仄めかされるさまざまな美青年たちの、隠された野蛮な暴力性にハラハラした。
印象に残っているのは『天使II』の不気味な天使。わたしの場合、天使といえば愛らしく無垢な赤ん坊の見た目を思い浮かべるが、ここに出てくる天使は大人の姿をしているため、なおさら神々しく思える。そんなこの世のものとは思えない美しい存在が、人を喰っている。こんなにゾクゾクすることはない。
『聖家族』のシリーズもなんだか忘れられない。少年の死の場面が自然かつ美しくて心を奪われてしまった。
秋の夜長にゆったりと読みたい1冊だった。

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2024年09月17日

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