【感想・ネタバレ】ネルソン・マンデラ 分断を超える現実主義者のレビュー

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Posted by ブクログ

ネルソン・マンデラ(1918~2013年)は、南アフリカのアパルトヘイト撤廃に尽力し、黒人初の大統領となった、現代第三世界を代表する政治家である。
マンデラは、若くして反アパルトヘイト運動に参加し、国家反逆罪で終身刑の判決を受けて27年間に及ぶ獄中生活を送った後、1990年に釈放され、1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任、白人大統領のデクラークと共にアパルトヘイト撤廃の活動を行い、1993年にノーベル平和賞を受賞した。更に、1994年に南アフリカ初の全人種が参加した普通選挙を経て大統領に就任し、民族和解・協調政策を進め、経済の復興にも努めた。
著者の堀内隆行(1976年~)氏は、京大文学部卒、京大大学院文学研究科博士課程修了、新潟大学人文社会・教育科学系准教授を経て、金沢大学歴史言語文化学系准教授。専攻は南アフリカ史、イギリス帝国史。
私は、現代世界の国際問題、特に南北問題や人種・民族・宗教による対立・紛争には強い関心を持っており、これまでそうしたテーマを扱った本を多数読んできた。その中には、マンデラが一時期自らの活動の目標としたチェ・ゲバラやカストロを扱ったものもある。南アフリカのアパルトヘイトは、今や歴史の一部といえるものなのかも知れないが、その撤廃運動の中心にいたマンデラの生涯については知っておきたいとかねがね思っていたので、本書を手に取った。
マンデラの一生を扱った本は、『自由への長い道~ネルソン・マンデラ自伝』(1996年)など多数ある(本書の巻末では「読書案内」としてそれらの本も紹介されている)中で、著者は本書について「マンデラのハンディな評伝を目指す。今われわれは、偏狭なナショナリズムが跋扈する世界に生きている。他方マンデラは、そのような分断を超え、誰もが想像し得なかった「和解」を成し遂げた人だった。・・・マンデラは、一貫した思想を説きつづけたわけでは決してなかった。人種差別と対決する姿勢は終生変わらなかったものの、それを実現する方法は時々に変化した。こうした「現実主義者」マンデラを描くことが本書の課題である。」と書いているのだが、第三者が、バイアスに捕らわれずに、マンデラの生涯を評したものとして、本書は意義がある。また、アパルトヘイトに焦点を当てた南アフリカの近現代史として読むこともできる。(ただ、この種の伝記・評伝としてはかなり淡々と書かれており、少々物足りなさが残るのも事実だが。。。)
現代世界が解決しなくてはならない最大の問題の一つ「人種差別問題」に一つの道筋をつけた男・マンデラを知るためのコンパクトな一冊である。
(2021年7月了)

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2021年08月02日

Posted by ブクログ

自分がネルソン・マンデラを知ったのは、中学の授業で見た映画『インビクタス』でした。

あの映画を見たときのマンデラのイメージは、黒人であり差別や投獄を経験しながらも、怒りや恨みにとらわれず白人に理解や敬意を示し、南アフリカ初の黒人大統領として国をまとめ上げた聖人というものでした。
でもこの本を読むと、マンデラの別の側面が見えてきたように思います。

自分が一番驚いたのが、平和主義者だと思っていたマンデラが若いころは共産主義との合流を考えていたり、武力闘争を辞さない組織に所属していた過去があり、マンデラ自身も武力闘争は仕方ない、と考えていたことがあったということでした。

そのマンデラがノーベル平和賞を受賞し、人種間の融和を推し進める大統領になったというのは、歴史や平和というのは紙一重の中で成立するものなのだと感じざるを得ません。

マンデラが武力闘争から平和主義へ舵を切った理由。それは世界の目があり、そして協力を取り付けるためだったように思います。

人種対立、低迷する経済と問題が山積みの南アフリカ。その状況下で人種隔離の政策「アパルトヘイト」を撤廃させ国を立ち直らせるためには、海外からの協力や外圧が一番効率的。
そのためには武力ではなく、あくまで平和的に変えていかなければならない。
そしてかつての支配層だった白人とも協力して、人種間の融和を演出すれば、より海外は南アフリカに目を向けるだろう。

そんな冷静な打算が、結果として自分が見た映画「インビクタス」に描かれたマンデラにつながっていったように思います。

理想のために共産主義や武力闘争と、その時代の趨勢を読み行動し続けたマンデラが、最後にたどり着いた最適解が平和と融和だった。この本の副題でもある現実主義者だからこそ、マンデラは立場や考え方を柔軟に変え、対立や恨み怒りすらも、飲み込み、平和主義者に転身したように感じます。

そう考えると現代の戦争や対立構造が収まらない理由もなんとなくわかる気がします。アメリカをはじめとした民主主義的で(一応は)人種差別を良しとしない国の影響力が弱くなり、中国をはじめとした権威主義の国の影響力が大きくなった世界。

そうなるとアメリカやヨーロッパの協力を得るために、融和や平和を唱える必要もなくなり、各国の権力者は自国、あるいは自分の実利を現実的に考え行動する。

その結果が今の世界の分断であったり、グローバルサウスであったり、ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルの民間人を巻き込んだハマスへの報復を止められない世界だったりするのかな、と感じます。

南アフリカだって、時代が違えば黒人大統領が生まれることも、アパルトヘイトが無くなることもなかったのかもしれません。

歴史も平和も当たり前のものでなくて、利害が一致してなんとか保たれるものなのかもしれないと、マンデラと南アフリカの軌跡を知り、今の世界のことを考えて思いました。

だからこそ、今必要なのは平和や融和の思想の押し付けではなく、それらの利点を粘り強く唱えていくしかないのかも、ということを感じてしまいました。

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2024年05月09日

Posted by ブクログ

客観的に事実を中心にマンデラについて書かれているので、ストーリー的な面白さはないけれども、理解しやすい。

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2022年09月04日

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