あらすじ
音楽評論家にして名盤復刻レーベルの主宰者が名盤・奇盤を世界中からかき集め、レビューはもちろん演奏家たちのエピソードや業界の裏事情など、おもしろ/びっくりの話題をたっぷりと語る。
東欧で活躍する指揮者・小林研一郎の『第9』を聴きに訪れたチェコ・プラハで数々の音楽遺産に感動し、ドイツ・ベルリンで訪れた悲運の指揮者レオ・ボルヒャルトの広大な墓地をさまよう。評論家のクリストファ・N・野澤や濱田滋郎、日本コロムビアのプロデューサー川口義晴ら故人とのかけがえのない思い出を語り、同じ戦争を別の場所で経験した黒柳徹子とセルジュ・チェリビダッケに思いを馳せる。
どこまでも本物の音にこだわってデジタル技術の発達による過剰編集を喝破し、自身のレーベルでリリースしたCDの制作秘話や業界裏事情、TPP締結で受けた損害までを赤裸々に語る。
「そうなんだ!」のエピソードと「なるほど!」の造詣から繰り出す演奏評で読者をクラシックの深淵に誘う待望のガイド。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
クラシック・レコードの通販サイトで、少し前から古い録音の「板起こし」とかをやっている著者制作のCDとかが発売されているの見かけるようになったが、実際に聞いたこともないような人たちの録音を積極的には聞くことがないので、そのCDは一枚も持っていません。(輸入盤に比べると高価なこともありますが)
同時に職業的なレコード・コレクターでもありますので、その蘊蓄というか楽屋話を書き綴った一冊で、それなりに面白く読めます。
冒頭の一篇が、シュワルツコップの名盤とされているR.シュトラウスの「四つの最後の歌」のうち「春」だけが半音低く歌われているというもので、これは私も初めて知りました。
クラシック以外でも、高い音を出せなくなった歌手がキーを低くして歌うのは知っていましたが、随分昔からこの曲の決定盤みたいな扱いを受けていた録音が、この著者が書くまでプロ歌手を含む誰も指摘して来なかったのが不思議です。(素人の私が気づくはずもなく、何種かの録音の中でも愛聴するのはもっぱらヤノヴィッツ盤というのもあります)
ドラマとかと同様、本でも出だしが肝心です。
しかし、著者が私より若いというのが最大の驚きです。
もっと爺様かと思ってた。
Posted by ブクログ
目次の「テオドール・クルレンツィスを検証する。」が目に留まり、パラパラと読んでみました。
クルレンツィス&ムジカエテルナは、ベートーヴェン交響曲第5番を聴いて独特な演奏だなと感じた指揮者とオケです。
著者の平林さんも革新的な解釈だと評していますが、どうしても理解できない部分が多いみたいです。
平林さんが特に気に入らないのが、ベートーヴェン交響曲第7番の第2楽章の冒頭で、これについては私も同感です。
しばらく(2分間くらい)全く音が聞こえないのです。(すご~く小さな音で鳴っています)
音量の強弱操作が極端すぎて落ち着いて聞けない演奏は他にもありますので、私と似たような印象を持っているかもしれません。
その他では、インバルのマーラー交響曲全集の録音方法の話とか、カルロス・クライバーの"田園"は息子が持っていたテープから起こしたとか、録音に関する裏話が楽しめました。
あと、ジョージ・セルのベートーヴェン交響曲全集を聴くきっかけになりました。
平林さんは好みがはっきりしていて、セルは嫌いで聴く気にならない指揮者だったようです。
ところが、ベートーヴェン交響曲全集を聴いて評価が180度変わったようです。(なんて気まぐれな人!)
セルの演奏は細部まで徹底してごまかしなしと絶賛するに至っています。
そんなに褒めるならと聴いてみましたが、評論どおりの響きで気に入りました。
平林さんは既存の音源を編集・調整してCD制作する仕事をしていますが、最近のリマスタリングCDの中には音をいじりすぎて、元の音源と雰囲気が明らかに異なる演奏になっているものもあるようです。
編集する人の好みで音に手を加えているのですから、そんなことも大いにありそうですね。