【感想・ネタバレ】失われた旅を求めてのレビュー

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Posted by ブクログ

自由な旅ができた時代。いまみたいに、GoogleマップもスマホもWi-Fiもない。その時は、まだ国や地域の経済成長も今よりずっと緩やかで、米ソ冷戦時代になっては終わりつつあってもそれは
ベルリンの壁という強固なものがなくなったりしたけど、まだより旅する自由が広がった感じだった。まさかアフガニスタンのバーミヤンがなくなってしまうとか、シリアの遺跡が破壊されたり、一瞬でワールドトレードセンターのツインビルが崩壊したるするとは思わなかった。でも実はそれよりずっと前からチベットののお寺や僧院は一瞬の砲撃で破壊されていたので、
まさかなくなるとへ!とは本当には思ってなかったはず。いつも準備や心の受け皿ふ不足で、またくればいいやと思ったりしていたが、また行くときには変わり果てた姿。それも当たり前、人の営みが良い方に便利な方に進んでいるはずだから。
悩ましい気持ちで、しかし蔵前さんの目の付け所さすがと思ったり、色褪せた写真がこころに突き刺さる。

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2023年07月23日

Posted by ブクログ

蔵前仁一(1956年~)は、バッグパッカー向けの雑誌「旅行人」(1993~2011年、前身の「遊星通信」は1988年~)を主宰した、バッグパッカーの間では知らない人はいない、イラストレーター、旅行作家。
本書は、著者が1982年から1996年までにアジア、アフリカを旅したときの写真をもとに、この30~40年で世界(それらの地域)はどう変わったのか(或いは変わらなかったのか)を振り返ったもの。取り上げられた国・地域は、中国、クンジュラブ峠(カラコルム山脈を越える中国とパキスタンの国境の峠)、チベット、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インド、パキスタン、ネパール、イラン、シリア、イエメン、アルジェリア、サハラ、マリ、ケニア、ウガンダである。
著者は、冒頭でこう語る。「40年のあいだに世界は激しく変わり、僕が見た風景もその多くがすでに失われてしまった。中国のように経済発展によってすっかり様変わりしてしまったところもあれば、シリアやイエメンのように戦乱によって失われてしまったところもある。あるいはイランのバムのように地震によって破壊された遺跡もあれば、バリ島のように観光地化で大きく変化したところもある。・・・僕らの世界は何を失い、現在の姿になっているのか。わずか40年間に世界はどう変わってしまったのか。失われた世界を旅行者としてもう一度旅してみたい。」
そして、末尾でこう締めくくる。「1980~90年代はバッグパッカーにとって最も旅がしやすい時代だったのかもしれない。その時代に旅していたときは、こういうふうに旅ができる時代は今後もずっと続くのだろうと漠然と思っていたが、残念ながらそうはならなかった。・・・2000年代に入ると、自由に旅することができない国や地域が増加し、世界はどんどん不安定になっていった。」と。
私は、著者より少々年下であるが、1980年代後半にバッグパックを背負ってヨーロッパを旅し、1990年代には長年ヨーロッパに駐在した。本書で著者が敢えて(変化の大きい)アジアとアフリカを取り上げたように、40年の変化の度合いは、アジア・アフリカと欧米は異なるのだが、それでも、私が最初に訪れたベルリンには崩壊直後の壁が多数残っていたし、民主化直後の東欧や、発展途上の北アフリカの国々の光景は、今とは随分違っていた。。。(ニューヨークには世界貿易センターのツインタワーがあった)
蔵前氏は、貴重な記録をもとに40年間を振り返りつつも、いつものように(私は他の多数の著作も読んでいる)、殊更にシリアスな表現はしていないが、街の変貌とそこで暮らす人びとの生活の変化を、時代を超えて、自らの目で見、肌で感じてきた体験に基づく思いは、旅をする者が得られる特別なものであるし、大いに共感を覚えた。
生涯一旅人である蔵前氏ならではの一冊と言える。
(2020年6月了)

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2020年06月23日

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