あらすじ
「学び直し」ブームのきっかけとなったロングセラー「もういちど読む山川世界史」がカラー頁・コラムを一新しリニューアル。コラムは新たなテーマ「ひと」「新常識」を加えて合計98 点を収録。グローバリズム・ポピュリズム・領土問題など、時事問題を理解するための基礎的背景も解説。高校の世界史教科書を一般読者のために書き改めた内容で、1冊で世界の歴史を明瞭・簡潔に叙述し、その全体像を示す。現代世界の理解に役立つテーマを解説。日々変化する世界をとらえ、ニュースの背景がわかる社会人のための教科書。
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Posted by ブクログ
本書は山川の教科書で世界史を学んだことのある人が昔を懐かしむには良いのかなという感想の書籍。
山川の詳説世界史ほど中身が詰まっているわけではなく、それでいて歴史の流れやポイントを強く意識した文章というわけでもない(悪い意味で山川の教科書らしい)ので、本書ではじめて世界史を学ぼうとはしない方が良いと思う。
また、大まかに世界史を学んでいても省略されている箇所が多く、「現代から遡及的に描いた歴史を年代順に説明したような内容」だという思いが強かった。
本書内容として良い点としてはコラムが面白い。
受験期ではないので、こういった寄り道部分が歴史の理解を深くしてくれる。もし、単調な本文に飽きてしまって読むのを止めようと思っても、このコラム類だけはつまんで読むと良いと思う。
コラムはどれもハズレはないのだが、面白い内容として思いつくものを挙げると、
ハンムラビ法典は、「目には目を」の「血の報復」よりも、被害者に代わって国家が司法権を行使することが注目ポイントだということ。
インダス文明の滅亡がアーリア人の侵入以前に起きており、その滅亡理由は環境の変化によるものであろうこと。
"黄河文明"とはもはや呼ばないこと。
倭寇が東アジア各国人の集合体で日本人だけでないこと。
ノルマン・コンクェストにより英語にフランス語が混じっていく(妙な綴りと発音の英単語があるのはこのため)こと。
など、歴史的事象の羅列から一歩踏み込んで受験用語に意味を持たせ、考えるきっかけを与えてくれる。
中盤の、
『ロマネスクとゴシック』では、西欧社会のローマからの文化的な自立とその独自性や、文化を育んだ政治的背景がまとめられ、続く『東西交渉Ⅱ』ではヨーロッパ側を視点にイスラーム、東洋との文化的交流の中でヨーロッパ側も発展していく過程がまとめられており面白い。
啓蒙思想の起点の中には他の文化を知ることで「系の外から自らの文化を見る事ができた」ことが役立っているとは思いもよらなかった。
高校生の頃には有機的なつながりを上手く見いだせなかった政治史と文化史だが、相互にしっかりと絡み合っているのだと理解できるこれらのコラムも、良い内容だと思う。
本書の構成は、
全編を古代・中世・近代・現代と大まかに4つの時代で分け、地域ごとに内容がまとまっている(例えば中国史は『中世』の部で後漢末から清までが一気に書かれている)。これにより地域ごとの歴史の流れがつかみやすい。
この時代区分は社会構造を元にしているため、同じ区分内でも地域によって収められている年代に数百年のバラツキがあったりするが、すでに世界史をある程度知っているので違和感はなく、むしろ分かりやすく感じた。
一方で、この書き方は年代の感覚が大雑把になってしまうので、地域間のつながり(:隣の文化圏はどんな様子なのか?)はわかりにくくなる。
以下は本書に対する文句の羅列である。
本文の内容に入って「えっ」と思ったのが、人類進化の部分が全くアップデートされていないことだった。
アウストラロピテクス以前の人類化石が数種類あるはずだが触れられていない(年代は合っているが固有名詞がアウストラロピテクスだけしか出ていないので知らないと勘違いしそう)。
21世紀に入っての、より古い時代の化石の発見で人類種発展の過程も大きく書き変わったはずなのだが、この部分は新しい知見が反映されていないように見える。
本書は高校教科書ではないのだから取り扱う内容の縛りはないし、現代の歴史学はすでに複合科学の様相を呈している。そういう意味で史料によらない歴史、生物学や古気候学、放射年代学寄りの分野も少しだけ触れておいても良い(コラムでも良かった)と思った。ちょうど最初の内容であるので「発掘や文献以外にも歴史を知るすべが増えている」と意識すればこれ以降の見方も変わるし、気になった部分をより深く知ろうとする場合にも幅が増える。
本書は山川の世界史の教科書を懐かしめるのだが、内容が薄く、本書だけでは全く本質が掴めないと思うことも多かった。
例えば、フランク王国とローマカトリック教会の繋がりやその後の叙任権闘争(さらに後の教皇権の絶頂期)への流れは直前に読んだ『地図で学ぶ 世界史再入門』の方がかなり分かりやすかった。
本書の記述では重要な用語を並べて覚えるだけで、前後の出来事との本当の意味でのつながりはわからないなと思った。本書の記述では、「短命だった他のゲルマン系王国とフランクの違いを生む大きな要因の一つが、異端であるアリウス派からアタナシウス派への改宗だった」とは思いつけないだろう。
内容が薄いと言えば、現代世界へ直接のつながりの薄いアジアアフリカ史、インド史もごっそりと抜け落ちている。
確かに現代の元となる近代の主役はヨーロッパ世界で、そこへつながる歴史の流れの太い幹があることはわかるが、本書構成では「植民地化で失われた文化」というものがまるっきり抜け落ちてしまっている。
抜け落ちている部分こそがどのくらいアップデートされたかを楽しみにしていた部分でもあったので、その点は残念だった。
紙面の都合も理解できるので、姉妹書(?)の『もういちど読む 山川世界史 PLUS アジア編』でも読んで補完しようかと考えている。
また、本書内容からは外れるが、読みながら考えたこととしては以下のことがあった。
構成としてどうしてもヨーロッパ史が中心となるならば、中世から近代までのヨーロッパ史の背景としてローマ帝国の“呪い”をもっと強調しても良かった(これもコラムでも良い)のではないかと思った。
「近世までのヨーロッパでは「皇帝」とは「ローマ皇帝」の意味である」という認識があれば、ヨーロッパ史の見方が変わり、主要な国の動きが理解しやすくなる。
同じフランク王国(= “新”西ローマ帝国)を祖としながら、ドイツ(神聖ローマ帝国)が皇帝位を持つことへのフランスの嫉妬やコンプレックス。そこからくる神聖ローマ皇帝位への執拗な干渉。一方のドイツはドイツで、“ローマ”皇帝であるために国内の統一よりもイタリアへの侵攻を繰り返し、皇帝の威信や権限を消耗し、ドイツ帝国統一以降も残る分断状態が進んでいく。他方、モスクワ大公国(= ロシア)は空位となったビザンツ(=東ローマ)皇帝を継ぐことで権威を示した。と、”ローマ”に対するヨーロッパの強烈な感情は我々には分かりづらい。
この状況を打ち破り「皇帝」を称したのがナポレオンで、そこから各国が「帝国」を名乗るようになっていく。
ナポレオンは18世紀末から19世紀の人だ。いかに長くローマ帝国がヨーロッパ人の心理に影響しているかがわかる。教養としてはこのくらいの背景を知っている方が歴史の繋がりや背景を理解できるのではないかと思っている。
「本書は誰をターゲットにした本だったのかな?」というのも読みながら/読み終わって思うことだった。
本書は、知識がほとんどない人には書き方が不親切で力不足だし、断片的に知識を持っている人が系統的に学ぼうとしても抜け落ちている部分が大きすぎて網羅的でもない。
基本的な知識がある人が詳説世界史のような圧倒的な容量を期待すれば物足りないだろうし、新しく分かってきたことを知るにはコラムでは面白いが分量が少ない。
高校時代を懐かしむ以外の目的にはなんとも中途半端な内容だったかなという印象だった。
山川の教科書を知っている人は知識の密度を期待するだろうし、名前だけを知っている人も似たような印象だろう。上下巻にするか、もっとぶ厚くてもよかったのではないか。その役目を2種の『もういちど読む 山川世界史 PLUS』が担うというならば、山川の名前を知らない人にも取りやすいように「簡約版」であることをもっとわかりやすくしたらよかったのではないかなと思う。