あらすじ
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北海道の大地に生き、日高の山々を愛した画家・坂本直行の若き日の画文集を文庫化。
昭和初期、日高山脈を望む十勝平野の開拓牧場で、厳しい開墾労働の日々をおくりつつ、
家畜や野生動物との触れ合い、開拓農民の生活、終生愛し続けた原野の自然と日高の山々への思いを、みずみずしい筆で描く。
■著者紹介
坂本 直行(さかもと なおゆき)
1906(明治39)年生れ。北海道大学農学部実科卒業。在学中は山岳部員として活躍。
30(昭和5)年北海道に帰り、広尾で友人が営む野崎牧場で働く。
36年同町下野塚の未開拓地に入植し開拓に従事。困難な生活の余暇に日高など北海道の山野を主題に、絵筆をとり続け、雑誌「山」などに作品を掲載する。
60(昭和35)年、山岳画家として立ち、農業から離れる。
著書に『山・原野・牧場』『雪原の足あと』『開墾の記』ほか。
82(昭和57)年逝去。
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Posted by ブクログ
北海道銘菓メーカー「六花亭」の包装紙でおなじみ坂本直行氏の詩画集。
帯広市にある「六花の森」の敷地内には直行さんの記念館が点在していて、作品や生涯を歩きながら追うことができる。山の夜明けを描いた油絵の発光するような美しさ、自然の中に在る孤独の豊かさ。最期の作品を掲げた小屋に流れていたシューベルトの「冬の旅」、あの音楽があんなに似合う場所は他にない。
四季をテーマにした随筆、無骨でリアル、でも硬くはない、湿気の少ない筆致。十勝の四季。雪の匂い、春の匂い、薪を焚く匂いがよみがえる。方言で交わす農夫や郵便夫との会話、牧場の仕事、家畜たちのにぎやかさ。娯楽ではなく生活に必須な移動手段としてのスキー、大雪で薪の調達に一苦労、この世で最もめんこいという仔豚たちが、成長するとあっさり「豚公」「美味い」になる。何もかも嘘がなくて美しくてくらくらする。
こんな手紙が毎月届いたらどんなに幸せだろうな。冒頭、冬の章はもっと寒い時期に読み始めればよかったと後悔。次は春の章、野火から新緑、咲き乱れる春の山野草を経て、賑やかな山のお花見、畑の植え付け、鳥たちの合唱に耳を傾けるところまで。
初夏から始まる夏の章は、今から読み始めるのにぴったり。秋はまた、時期が来たら。とても楽しみ。
余談。
本を閉じている間も言葉や情景の端々が脳裏を離れず、反芻しているうちにふと気づいたこと。
四季の移ろい、身の回りの人々の言動、生活の習慣や小さなたのしみ、かわいいもの、美しいもの…読むだけでそこに連れて行ってくれるような筆致の清々しさ…何かに似てる…
あ!これ「枕草子」だ!十勝の牧場バージョンの。
春はあけぼの、と同じくらい美しい、山のあけぼの。個人的にめちゃくちゃ納得がいったので、そういうことにします。私の中では。