あらすじ
雪解けが近づいたこともあった。しかし現在、ロシアとの交渉には冷たい氷の壁が立ちふさがり、「固有の領土」はまた遠ざかってしまった。戦後、歴代総理や官僚たちが使命感のために、政治的レガシーのために、あるいは野心や功名心に突き動かされて、この困難に挑み続けてきた。そして、ゆっくりとであっても前進していた交渉は、安倍対露外交で明らかに後退してしまったのだ。その舞台裏で何が起こっていたのか。国家の根幹をなす北方領土問題を、当時のインサイダー情報も交えて子細に辿りながら、外交交渉の要諦を抽出する。
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Posted by ブクログ
1945年の終戦後から、日本とソ連・ロシアの間で行われてきた北方領土交渉や平和条約締結に関する交渉の歴史が記されている。
その中で紹介されている人物は、
・重光葵、鳩山一郎 ⇔フルシチョフ
・中曽根康弘、安倍晋太郎 ⇔ゴルバチョフ
・小沢一郎
・橋本龍太郎 ⇔エリツィン
・安倍晋三 ⇔プーチン
である。
戦後76年を迎える2021年においても、北方領土問題はおろか、平和条約さえも締結されていない現状に至るまでどのような背景と問題点があったのかを読み解くことができる。
その中で見えてくるのは、ソ連・ロシアという国の特殊性や両国内の政政対立と政官対立、そして国際関係を動かす大情況のタイミングの悪さである。
著者は北方領土が日本に最も近づいたのは、
橋本政権下におけるエリツィンとの東京宣言やクラスノヤルスク合意がなされた時であったとしている。
一方で、私は安倍晋三氏が自身の故郷である山口県長門市にプーチン大統領を招くなど、日露間の会談が増加していた2016年がもっとも日本に近づいた日であると当時実感していた。メディアもこぞって取り上げ、当時大きな関心を抱いているわけでもなかった私も胸を躍らせた。しかし、この本では安倍政権下における領土交渉こそ、現状における問題の停滞の大きな要因の一つであるとしている。
日ソ共同宣言に基づいた交渉を進めるとされたシンガポール合意は橋本政権下に交わされた合意を事実上無効とするものであるとされ、安倍政権もすでに国民の高まる期待の収拾に向けた動きを行っていたとされている。
現在、中国をめぐる問題で対応を迫られる日本政府であるが、必ずロシアとの関係が影響を与えることとなる。停滞しているようにも感じるロシアとの関係が今後両国にとってよりよい方向に進展していく事を期待している。