会社員、鈴木健夫はある朝の通勤電車で女性に突然「触ったでしょ!」と腕を掴まれる。
潔白を証明するつもりで駅の事務室からパトカーに乗せられ警察署へ…
その後のとんでもない理不尽な体験を描くノンフィクション。
第一部が鈴木健夫氏本人による手記で、まず警察があの手この手で
犯人に仕立てようとす
...続きを読むるのが恐ろしい。
調書は不利になるよう書こうとする、偽の逮捕状は見せつける、
拘束期間はずるずると引き伸ばされ厳しい尋問が自白に追詰めようとする。
釈放されたものの職を失い2年の歳月と二度の裁判(一審は有罪)を得て
ようやく無罪を勝ち取るのだが、誰が責任を取るわけでもないし、
失った社会的地位や収入に何一つ補償すらなく(!)
保釈金や裁判費用、生活費にあてた借金の返済が続くことになる。
大変つらい状況なのに鈴木氏が前向きな気持を失わないのが救いで
留置場で一緒になった犯罪者と不思議な友情が生まれたり
失業中、娘の授業参観に出て充実感を味わったり等
素朴なユーモアのある文章から人柄がよく出ていると思う。
第二部は鈴木氏の担当弁護士の解説をまとめたもの。
これが知らなかった、で済まなくなるようなことなのに知らないことだらけ。
女性に腕を捕まれ事務室に行く時点で「逮捕」されたことになり
あとは流れ作業のように「有罪」として処理されてしまうんだと!
しかも無罪判決は「夢のようにフェアな裁判所に当たった」
ということで「運がよかった」のが大きいらしい。
さてこの本、先月文庫化されたのだが事件から6年、
鈴木氏は今、どうしているのか?
新たに付された「文庫版あとがき」はなんとも不思議な「落ち」がついたようで
…狐につままれたような気分になるのである。