記憶喪失ものといえば、木原音瀬センセの「COLD SLEEP」が秀逸ですが、この作品もちょっとスゴイんですよ。
ごく普通のリーマンでノンケの相馬は、精悍で二枚目エリートサラリーマンの勝倉に拝み倒されて、恋人として同居しています。「下僕になる」と言った勝倉の言葉に押され仕方なく付き合い始めたものの、相馬は甘やかされるのが心地よくて、だんだんワガママな女王様に。
そんなある日、勝倉が事故で記憶喪失になってしまいます。しかも、それまで優しくてへタレだった彼が一転、傲岸不遜なジコチュー男に豹変!でも、それが相馬以外に見せていた勝倉の本性だったわけです。
変わってしまった勝倉に落胆し怯えながらも、相馬は今までいかに大切にされてきたか、やっと気がつき反省します。
そして失った記憶を取り戻してもらおうと、一生懸命つくし始めるんですが…
記憶が戻る戻らないというのも気になるところだけど、このストーリーで深いなぁと思うのは、人というのは相手のどこを見て好きになったり、愛したりするのかという主題があるところです。
相馬は、自分に下僕のように仕えて、優しく愛してくれていた恋人を追い求め、目の前にいる勝倉の存在を認められません。目の前にいる彼にいろいろ努力して尽くすのは、全て、消えてしまった勝倉を取り戻すためです。
記憶を失った勝倉にしてみれば人格全否定であり、不愉快で苦しいに違いありません。
互いに葛藤し、別人のようになった勝倉に戸惑いながらも、相馬は次第に今まで見えていなかった大切なことに気付いていきます。記憶を失おうが、横暴になろうが、勝倉は勝倉なんですよね。そう思いきれた相馬は人間的にとても成長しています。
書き下ろしの「彼をさがして」があることによって、いっそうテーマがはっきりした形になっています。こちらは記憶が戻ったけど、記憶喪失になった3ケ月のことはすっかり忘れてしまった勝倉の視点で物語が進行します。
今度は勝倉が相馬の態度の変化にあたふたします。
Hの時の相馬の様子が変わったことに悩んだり、友人との仲を疑って嫉妬してみたり、笑いを誘いながらもせつなくなってしまうくらいの、勝倉の心情が描かれています。
エロ的にも優れてます。下僕の勝倉と俺様の勝倉のHの豹変ぶりに翻弄される相馬にはツボった。
ただの薄っぺらでベタな記憶喪失モノじゃないですよ。だから、萌えも大量、読後は満足です。