丹下和彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ2026/07/26 - 2026/07/28
目的があり手に取ったが、古典の悲劇というのはあまり読んだことがなく、ここまで劇場的な表現なのか、という構成に驚いた。
エウリピデスのメデイアを読んで、一番印象的だったのは、母による子殺しでもなければ、イアソンに対する憎悪でもない。強烈なまでの家父長制とそれらに翻弄されるメデイアやクレウサといった女性たちの立場である。
p29-l2
ところがわたくしたち女は、夫ひとりを頼りにしてゆかねばならないのです。
p40-l15
心得は充分、おまけに女と生まれついた身だ、善いことにはからきし力がないが
悪いことは何事であれ、その上なくうまくやり遂げてみせるという女に。
p41-l8
世の中変わってこれからは、わたくしたちのほうがきちんとした生き方になりましょう、
女の評判が高くなるのです。
女を貶す風潮はもうなくなりましょう。
これらの表現は特にそれを感じさせた。
同時に、存在を毒にしなければ生きていくことも、自身の尊厳を立てることもできないという悲劇に押し込められていくメデイアや、ただ父の命令によりイアソンと婚姻をすることで毒牙へとかかるクレウサに痛ましい思いすら感じた。
自尊と愛を天秤にかけ、前者を選ぶということが本当に悪いことなのか。
これは現代人ならではの視点かもしれないが、あまりにも悲劇に向かう彼女に同情を持たずにはいられなかった。
子殺しも人を呪い殺すのも、前提としてあり得ないことではあるが、文字通り身を割く手段をメデイアに取らせたのは、それこそ魂の殺人を犯したのはクレオンやイアソンではないかと感じる。
破滅に向かう自分を鼓舞するメデイアの様子は抱きしめてあげたくなるほど切なかった。
手段は決して良くなかったが、一人の人としての尊厳を踏み躙るということは国一つ滅亡させてもおかしくないほど重いことだと痛烈に感じる物語だった。 -
Posted by ブクログ
ギリシャ悲劇の一つ、エウリピデスのメデイア。
金羊毛を目指すイアソンに一目惚れして弟ぶっ殺し、イアソンの敵を謀殺し、ついに正妻ゲットだぜと思ったら、(この後が本編)旦那を若くてピチピチした亡命先のコリントス王女に猛禽的略奪され、ヤロウ全員ぶっ殺してやる、というメデイアの復讐譚。
メデイアはイアソンもコリントス王も王女も憎さのあまり、自分の生んだ子まで殺してしまうが、その過程におけるメデイアの心情の揺れ動き、すなわち怒りと冷静さと理性の間を入ったり来たりがこの話のポイント。
怒りで復讐を思いつき、冷静さで殺人計画をじっくり練り上げるが、理性によって躊躇う、しかし怒りでやはり計画を決行し、子殺しまで果たしてしまう。
ギリシャ神話ではメデイアは悪女として捉えられることが多いが、こうしてみるとやっちゃったことはそうだけど、そこまでの心理課程を見ると、神話の登場人物が非常に人間的になってくる。
また、ギリシャ悲劇では神の抗いがたい運命を前にした人間を描いたりするが、ここではあくまで人間だけの物語だから、一層メデイアの人間臭さが出てくると思う。
まあ、イアソンも、コリントス王クレオンも、全く登場しないけどコリントス王女グラウケも、何よりメデイアも全員クソ。過去作品の価値観を現代の価値観で評するのはご法度とはいえ、ゲラゲラ笑いながら「やっべークソだw」と楽しむのも一興。 -
Posted by ブクログ
ギリシア悲劇初心者でーす(^^)/
きちんと読んだことあるのは唯一「オイディプス王」である
しかしながら強烈なインパクトを私に与えたこの作品
一体なぜここまで理不尽な運命を背負わせるのか?
不条理作品かつ救いようがなく何を見いだせばいいのかよくわからなく切ない思いだけが残った
そののち、様々な悲劇物語を読んだものの、何を読んでも「オイディプス王」よりマシじゃんか
と思えてしまうことに…
一体全体なぜこのような作品が紀元前に生まれたのか気になる
この悲劇の世界をちょっと覗いてみたくなり本書を読んでみることに
ちなみに後世に残されたギリシア悲劇は33篇のみで、紀元前五世紀に創作・上演されたものであるが
(大変貴重ですね)、起源ははっきりしないようだ
当時劇の鑑賞は国家主催の行事、全市民的行事レベルだったようだ
アテナイの精神生活や価値観を映し出すものであった
特にこの4つのもの「自由、法、勇気、知」を見出すことができるという
ちなみにアリストテレスの「詩学」は最も古いギリシア悲劇論といわれ、
その中で宗教と関連づけず純粋な「芸術、文芸」としている
さて本書は非常に親切な解説書である
アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの三大悲劇詩人の作品を取り扱うのだが、
各作品において、丁寧にあらすじを教えてくださる
よって内容を知らなくても大丈夫なのだ(ありがたい)
さて私の気になる「オイディプス王」
元々優れた知性の持ち主であり、救世主と言われた人物だ
自らの秘められた過去の秘密も暴き出し、知による自立を果たす
(きれいに書けばそうだが、要は知りたい欲求が凄まじくなかなかの強引さがみられる場面も…)
神が仕組んだ罪
「父を殺し母と交わる」運命を背負うオイディプス王(ううっ)
しかしながら神を非難せず、自らの責任を主張する
認識不足の未熟な知性を責める(知の自覚)
冷静に知の未熟さを自覚し、全てを受け入れ
冷静に自ら罰する(目を潰す)
自分の運命を知るまでは「知りたい欲求」の情熱が凄まじい
知ってしまってからも、運命を嘆き悲しむものの、最後は冷静に運命を受け入れるのだ!
(うーん
わかるけど
コレが「知」と言われると少し違和感は感じる)
というわけでわかったようなわからないような…
他ソポクレス「アンティゴネ」はオイディプス王の娘であるが、単なる英雄像ではなく、人間臭さを見せているという
死を身近なものとしながら、死に対する本能的な恐怖も見せる
本書ではそんな見方をするようだ
以前読んだ「誰のために法は生まれた」(木庭顕氏)
こちらでは「デモクラシー」、「本当の自由とは何か」という問題として取り上げられていたので読み比べが非常に楽しい
同じ作品でも読み方、深追いの仕方が違う!
アイスキュロス「オレステス」なんかは愛と親子と復讐と、繰り返される敵討ち
ドラマ性の高さと、何が正しく、正義とは何か…
哲学を感じる
じっくり読むことで当時のアテナイの精神、文化、価値観が垣間見られる
国家行事ということなので、道徳教育的なものや、政策的なものもあったのだろうか
アテナイの誇りと勇気、知を感じ、彼らが自由を心から求めているのが伝わる
そんな中、自由のために何が必要か、自由のために社会的にどう責任を負うのか…
俗っぽい日常の中で試行錯誤しながら真剣に向き合っているのだろうなぁ
なんだか崇高な気持ちになると同時に、現代の我々のように試行錯誤していたのかぁと親しみや共感も覚える
そしていつも思うが、過去の歴史で
今にはない精神世界の素晴らしさを感じると
遠い祖先ながらに人としてなんだか誇らしくうれしくなるものである
現代の物質的豊かさではない精神的豊かさの尊さが何とも良いですな
というわけで初心者なのでこのレベルで終わらせることにする(稚拙ですみません)
もう少しギリシア悲劇に触れることができるようになったらさらに深堀をしたいと思います
本書は初心者でも非常に読みやすいのだが、同じ内容が結構しつこく繰り返されるので
これを「親切心」と取るか、「that‘s enough」と感じるかは人によるかもしれない
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Posted by ブクログ
その多くが散逸しわずか33編しか現在に残っていないギリシア悲劇。その中から「オレステイア」三部作や「オイディプス王」、「メディア」など特に有名な7作を丹念に読み解いていき、そこに古代ギリシアの精神を明らかにする。
この読み解きがとても面白い。例えば「アンティゴネ」では、話者不明のたった一つの台詞から主人公アンティゴネの死への願望と逆説的な生の想起を見出し、そしてそれらを集約した人間的英雄像にまで話を飛翔させる。そこまでの解釈が正しいのかどうかはわからないが、とにかく力の入った読み解きようで、なるほどこんな読み方があるのかと驚きがある。それはとりもなおさず、現代に残るギリシア悲劇がいかに深く、そして開かれたものであるかの証左でもある。25世紀も前にこんなに優れた作品が創られたというのはやはり驚異的なことだ。
そんなわけで、ギリシア悲劇をさらに深く読む手がかりを与えてくれる。本書のおかげでまたギリシア悲劇を読み返したくなってきた。あるいは、ギリシア悲劇を読んだことのない人にも、作品の魅力を伝える格好の手引きになる。