御輿哲也のレビュー一覧
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1927年発表、ヴァージニア・ウルフ著。孤島に住む夫人とその一家、彼らを取り巻く画家ら数人。第一部「窓」:明日灯台へ行くことを思いながら日が暮れ、夕餉の席で頂点に達する各人の心理的緊張を描写する。第二部「時はゆく」:擬人化した風や闇などに視点を据えつつ、それらに家が侵食されて廃墟と化していく過程を描く。第三部「灯台」:十年後、再び家に戻ってきたラムジー氏と子供達がようやく灯台に向かう。
濃密な心理の流れだった。
第一部:主観人物はころころと入れ替わり、特に夫人の存在感が他の登場人物の心理に及ぼす影響を精密に、詩的に、哲学的に描いている。静かな池に石を投げ入れて波紋が広がっていく様を眺めているような印象を受ける。ストーリー自体はほぼ動いていないのだが、微妙な精神の揺れを介して、各人の関係や思想が浮かび上がり、物語に深みを与えている。
第二部:この部が一番面白かった。風の小隊など、自然現象に関するユニークな表現が目を引く。それに比べて、主要人物のストーリーは非常に簡潔に語られている。生き生きとした自然と無機的な人間。全てが朽ちていく、という事実がひしひしと伝わってくる。
第三部:つくづく人の死というものは、肉体としての死だけでなく、心理的な内面の世界(それは他の人の心にも食い込んでいる)をも含むのだと痛感した。そしてようやく灯台に到着したシーンでは深い解放感を覚えた。特別取り立てて言うことのない本小説のストーリーなのだが、たったそれだけの行為に膨大な心理が詰まっているのかと思うと、感慨深いものがある。こうして一旦は灯台に流れ着いた精神の流れは、これからも、永久に、主観人物を変えつつどこかへ流れ続けていくのだろう。
解説によると、本小説は著者自身の両親に対するレクイエムらしい。永久に続く流れに身を委ねること、委ねられると納得できたこと、その穏やかさを著者はきっと感じたことだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレXでよく見かける本。確かにおすすめされる理由がわかる。
まず、女性作家という点だけで時代的に価値がある。ドストエフスキーもワイルドもみんな男性作家だし、当時の女性の立場を女性自身の視点で描いたというだけで大きな意味がある。
この作品は「見られる性」としての女性を描いている。夫やその友人たちに見られていることを気づかないふりをしているが、意識していたり、男性が求めているものを分かっていながらも、それを渡さない男女の駆け引きだったり、なるほど。そういう瞬間がたくさんあるよねの連続。
また、「女性」を超えて「ケアする側」の感情の揺れも細かく描かれていて、現代でも通じるリアルさがあると思う。誰かを支えることの与えつくす疲労、そしてケアする/される側の両者依存。男女問わず、「ケア役割」にいる人なら共感できるところも多いと思う。
ただ、文体がとにかく読みづらい。意識の流れをそのまま書いている感じで、今誰の思考かわからなくなる瞬間が多い。
あと、主人公の女性像があまりに旧時代的で、令和を生きる大学生にとっては「化石レベル」。ノスタルジーにもならない印象。だから、入り込めなかった。
でも、考えさせられる部分は多く、もう少し成熟してから読めば確実に見方が変わる本だと思う。 -
Posted by ブクログ
イギリスの作家ヴァージニア・ウルフの小説。
時は1900年代初頭。そこに遠足に行くことを心待ちにしている幼い子供が明日は灯台に行けるのかを母に問うと、横から気難しい父親が「天気は、まず駄目だよ」と全否定し、幼心がショックを受ける場面から始まる。
以降、複数の登場人物が他人をどのように知覚しているかを、イギリスの小説っぽく冗長に描く。著者は「(人の)生はつり合いよく整えられた一連の馬車ランプの光ではない。我々を取り巻いている半透明なかさ、luminous haloである。この定まららぬ、捉えがたい精神を書きあらことが小説家の仕事ではないだろうか?」と述べている。つまり、いつまで経っても変わらないのではなくて、生は無常であること、そんなことに迫ろうとしているのだろうか。 -
Posted by ブクログ
あらすじを追っていくこと、それを自分の経験や知識に照らして理解へ落とし込んでいくことが、いかに無意味かということを、この小説は教えてくれる。
この作家は、とても自分の心の動きに敏感な人だったのだろう。
人が人と視線を交わす。ただそれだけの刹那、どれほどの思索が交差するか。それをあますことなく文字にしたらこうなるのかもしれない。
こんな小説、ほかに見当たらないのではないか。
そしてまた、これほど内省に特化した小説もない。
すでに100年も前にものされてしまっているのだから。
自分という存在は、果たして一貫しているのか。
それにさえ疑念が湧いてくるようだ。
それでも作家は、人間の最後の希望の拠り所は人とのつながりに見出しているのだろう。
がんばって解釈すると上のようなことだろうが、まだまだ読み切れていないと思う。そして、きっと元気なときに読まないと、ひどいことになりそうな、そんな気がする本でもある。