山野海のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
自閉スペクトラム症の兄と共に歩んできた妹との物語。
障害のある人の「きょうだい」が抱える思いや心配事は、決して特別な家庭だけにあるものではない。身の回りにも当たり前に存在していることなのだと思う。
本作では、とりわけ妹の結婚をきっかけに、それまでの日常の中では見えにくかった問題が浮かび上がってくる。自分自身の人生を歩んでいくことと、兄とのこれからを考えること。そのどちらか一方だけを選べばよいわけではないからこその苦しさがあった。また、本人や家族が置かれている状況について、周囲からなかなか理解を得られない現実にも胸が詰まった。
それでも、この物語を読んで最も心に残ったのは、兄妹の関係だった。
もちろん簡単なことばかりではない。それでも二人のやり取りには、長い時間を一緒に過ごしてきたからこその距離感と愛情がある。その関係性がとても素敵で、何度か涙が出た。これから先、それぞれに新しいライフステージが訪れても、きっと二人なりの形で向き合い、乗り越えていくのだろうと思えた。
そして改めて感じたのは、特性のある人にとって、「どんな人と出会えたか」ということの大きさである。特性そのものだけで人生が決まるわけではない。理解しようとしてくれる人、自然に関わってくれる人、必要なときに支えてくれる人との出会いによって、生きる世界の広がり方は大きく変わるのだと思う。
題名の『平行と垂直』も、単に特性によるこだわり行動を示すだけではなく、人と人との関係を思わせる言葉としても意味が込められているように感じた。
苦しさも描きながら、それ以上に兄妹の間に積み重なってきたものの確かさを感じる一冊だった。映画化もされるとのことで、映像ではこの兄妹がどのように描かれるのか楽しみにしたい。 -
Posted by ブクログ
自閉スペクトラム症を抱える兄・大貴と、彼を支える妹の希。若くして母親を亡くし、父親の再婚を経て、ずっと二人きりで肩を寄せ合うように生きてきた兄妹の物語です。そんな二人の穏やかな日常に、希の「結婚」という人生の転機が訪れたことで、これまでの生活に新たな変化が訪れ始めます。
作中で自閉スペクトラム症についての描写を具体的な言葉として追うことで、これまで自分の中でどこかあやふやだった認識の解像度が上がり、ハッとさせられるような多くの学びがありました。
障害を持つ家族と共に生きる日々は、決して綺麗事だけで語れるものではありません。現実的な苦労や負担、そして先の見えない未来への不安に思い悩み、立ち止まってしまうことも当然あるはずです。
しかし、周囲に登場する人々も心優しい人物ばかりで、読み進めるうちに自然と心が温もっていきます。
そして何より胸を打つのは、揺るぎない二人の兄妹愛です。自分の思いを上手く表現できない不器用な兄と、言葉がなくともその奥にある確かな愛情を全身で受け止めている妹。二人の間にだけ通じ合う確かな絆に、思わずグッとくるものがありました。
厳しい現実の重みをしっかりと描きながらも、読後には「きっと彼らには明るく幸せな未来が待っている」と信じさせてくれる、希望に満ちた温かさに包まれる一冊です。 -
Posted by ブクログ
これ映画館で見たら絶対ガチで泣くやつじゃん!あの「全米が泣いた」みたいな派手なやつじゃなくて、じわじわと涙腺が決壊するタイプのやつ。
自閉スペクトラム症の兄・大貴と、彼を支えてきた妹・希の日常を描いた物語。
「大切な人の心の声が聞きたかった」
「兄の世界をこわしたくなかった」
「兄らしくしたい、自分は一人でも大丈夫だよ」と、声なき言葉で伝えようと努力した大貴。
いつしか、お互いを思い合っているはずの
善意のルーティンが、相手を縛る残酷な呪縛になっていく……。
この誰も悪くないすれ違いが、本当に切ない。
でも、大貴の「兄らしくいたい」という必死な声なきアピールが、希の『支えてあげている』という思い込みは傲慢だったんだと気づかせてくれる。
100%分かり合えないかもしれない。
でも、だからこそ2人は支える、支えられる
ではなく、「対等な一人の人間」として向き合えたんだと思う。
そして、この兄妹愛がなんとも愛おしい。
お涙頂戴のジメジメしたトーンになりがちなテーマだけど、希の口調がカラッとしているからこそ、逆にその葛藤が胸にグサグサと刺さる。
ラストの2人の姿と「おあいこ」という言葉が心に残る。今までの2人の道のりを回想させ、『マッティニー』を楽しそうに歌う2人の姿が目に浮かんできて止まらない。
8月に安田章大さんとのんさんで映画化されるらしいけど、これ絶対映画館で見たら涙腺やられる。100%泣くだろ!公開前に原作を読めて本当に良かった。