亡霊は伝染する。反転し、また反転する。
読んでいるうちに、幻想と現実の境界線が曖昧になり、
気づけば自分も物語の霧の中に迷い込んでいる…
『溺れる少女』ケイトリン・R・キアナン
いや…これは本当にすごい本だった。
気軽に読める本ではまったくない。
むしろ難解で、濃密で、容赦がない。
語り手のインプは統合失調症の家系で、
母も祖母も狂気の果てに自殺している。
そんな彼女が語る物語なのだから、
真実がどこにあるのか全く掴めない。
いわゆる <信頼できない語り手>で
読者はインプの紡ぐ言葉に終始揺さぶられ続ける。
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キーワードは主に2つ。
ひとつは、ある夜、ずぶ濡れの裸で現れた
謎めいた女性エヴァ・キャニング。
もうひとつは、画家ソルトンストールが、
川に取り憑いた少女の亡霊を追い払うために描いた
いわくつきの絵画『溺れる少女』。
亡霊は伝染する。物語もまた伝染する。
本書ではそれを「ミーム」と呼び、
作品という媒体を通じて、
時代を越え、形を変えて感染していく。
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何が面白いって、この<伝播する亡霊>というテーマが
さまざまなモチーフと結びついていくところ。
松本清張をきっかけに広まった青木ヶ原樹海の話、
聴くと死に誘われると言われた名曲「暗い日曜日」、
(あれ、本当に美しい曲なんだよね…私は好き。)
そして古今東西の文学作品への言及が怒涛のように押し寄せる。
これを訳し切った翻訳者の鯨井久志さん、本当にすごい。
どうやったらこんな文学の迷宮を訳し切れるのか…。
読んでいて「???」になった部分も、
巻末の解説を読むと一気に霧が晴れていく。
読み終えたあと、頭の片隅にずっと冷たい水が残るような余韻。
すごい本を読んだな…と、立ち尽くしてしまう読後感。
そしてなぜかもう一回読みたくなる、不思議な魔力。