タイトルの通り、あの夏が住野くんにとって『かたすみのきおく』になっていく物語だった。
10年前でも、20年前の出来事になっても、あの夏は時折光り心のかたすみにあった、というお話だった。
人と人との出会いは、海のようにたまたま流れた先で引き合って、流されてしまえば離れてしまうし、二度と会うことはないのかもしれないけど、そうした出会いで人は形成されていくのだと思えた。
別れとは悲しいだけではなくて、惜しむだけの人と重ねた『かたすみのきおく』が自分を作って、巡り巡ってまた流された先で出会うかもしれない、と人生の長さを楽しむこともまた一興だなと今は思っている。
青木さんが恋人に求めていた「自分を見てくれる」という要素は住野くんに備わっていたけど、住野くんは青木さんが惹かれるような突出した個性があるタイプではない。
反対に住野くんが惹かれる魅力が青木さんには備わっていたけど、青木さんは住野くんと親密になるタイプの人間ではない。
そんな2人が出会って流れて流された先で、お互い最期をあの『かたすみのきおく』と同じ海が見える場所を選び、「恋」という枠から抜け出した先で共に居られる結末はすごく美しいと思った。
ふとした時に思い出す記憶が、住野くんのように長い間でどんどん忘れていってしまっても時折胸を締め付けるような淡い記憶かもしれないし、青木さんのように夏の青さも湿っぽい暑さも鮮やかに思い出される記憶かもしれないけど、解像度は異なっても最期の選択は同じになった2人が愛おしい。
そう見ると、1巻表紙の青が映えた線がはっきりとした住野くんは「青木さんから見た住野くん」で、2巻表紙の褪せてぶれた青木さんと住野くんは「住野くんがいつまでも何度も取り出した"かたすみのきおく"」なのかな、とか色々考えた。
素敵な作品をありがとうございました。