■「廊下に立たされる罰」から刑罰を考える
第1は、因果応報。宿題をやってこなかったから、その反作用として、廊下に立たせる罰を科すというだけのことで、他に目的はない。
第2は、他の生徒達への「見せしめ」。宿題をやってこないと、廊下に立たされることになるので、皆に宿題をやらせるために他の生徒達を威嚇して従わせることを目的とするもの。
第3は、宿題をやってこなかったその生徒を改善・教育するということで、その生徒を立ち直らせて、今度から宿題をやってくるようにさせることを目的とするもの。
第4は、宿題はやってこなければいけないというルールが破られたことを確認し、そのルールを改めてクラスに周知徹底することによって、そのルールを回復させ、遵守させることを目的とするもの。
■「刑罰とは何か」を巡る考え方
第1の考え方は「応報論」であり、犯罪に対する反作用として刑罰を科すことそれ自体に意味があるという考え方。
第2の考え方は「一般予防論」であり、刑罰は一般人に対する威嚇のためにあるという考え方。
第3の考え方は「特別予防論」であり、刑罰は行為者の改善・教育のためにあるという考え方。
第4の考え方は、「積極的一般予防論」であり、刑罰は国民に規範意識を覚醒させるため、或いは法的平和の回復のためにあるという考え方。
■未必の故意
故意が認められうためには、犯罪事実の「認識」だけでなく、犯罪事実の「認容」が必要であるというのが一般的にな見解で、「認容」とは犯罪の結果が発生しても「仕方ない」「構わない」などの心理状態をいう。
この「仕方ない」「構わない」と思っていた場合、犯罪事実の認識と認容がある心理状態として「未必の故意」という。
■量刑は具体的にどのように判断するのか
被告人側の事情
①行為態様・方法
行為に残忍性、執拗性、危険性などが認められれば、その悪質性が肯定され、刑は重くなる。
②犯罪結果の大小・程度・数量
犯罪が既遂となった場合と未遂にとどまった場合の量刑の比較が問題となる。
③動機・犯行に至る経緯
動機は、非難の強弱に影響を及ぼす。動機の悪質性はその反社会性、私利私欲性、情欲性、無目的性などから明らかになる。
④計画性
犯罪の計画性が強ければ強いほど、法益侵害の危険性は高まり、法益軽視の度合いが大きいため、強く非難されることになる。
⑤被告人の性格
被告人の反社会性、常習性、犯罪傾向性、粗暴性、精神的未熟性などの性格は、特別予防の観点からは重要な量刑事情となる。
⑥被告人の一身上の事情
被告人の年齢、国籍、職業、社会的地位、経済状態などの一身上の事情も刑の個別化という特別予防の観点からは考慮されることになる。
⑦前科・前歴
満期で刑務所から出所した後や仮釈放中に、再度同様の犯罪を起こしたような場合、非難の程度は大きくなる。
⑧余罪
余罪そのものを処罰する趣旨で量刑事情にすることは許されない。しかし、犯罪の動機・目的・方法、被告人の悪性格、再犯可能性などを推認するための資料とすることは許される。
⑨被告人の犯罪後の態度
証拠隠滅をしたり、逃亡を図ったりするなど、被告人の犯罪後の態度は、量刑を重くする方向で考慮される。
⑩共犯の事件
コミュニティ・社会側の事情
⑪社会の処罰感情(処罰要求)
社会や世間が「犯人を許せない」という状況にあるときには、重い量刑になる傾向がある。しかし、社会の処罰感情(処罰要求)は極めて曖昧なものなので考慮するかどうかを含め新著湯な判断が必要。
⑫犯罪の社会的影響
犯罪の社会的影響も量刑事情となり得ることは一般に認められており、社会的影響が強い場合は非難の程度が大きくなる。
⑬社会的制裁
社会的制裁がすでになされている場合には非難の程度が弱まることも考えられる。
被害者側の事情
⑭被害者の落ち度
被害者の落ち度が量刑で考慮されることはあり得るが、その具体的な事情が当該事件で量刑事情としてどのような位置づけを与えられるべきかを慎重に判断する必要がある。
⑮被害者(遺族)の被害感情・処罰感情
被害者感情が沈静化し「赦し」があった場合、一般に刑を軽減する方向で考慮される。