萬代悠のレビュー一覧

  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    三井銀行の前身である三井大阪両替店における信用調査手法や資料を分析する。これにより、江戸時代商人の従来とは異なる実態を明らかにする試み。

    まず、給与体系の重役以降の昇給カーブを急上昇、遊女通いの金銭的補助(福利厚生)という、奉公人が転職退職しないような施策が面白い。現代は転職・キャリアアップが喧伝されているが、昭和・平成時代までの年功序列終身雇用時代には多少引き継いでいたのではないか。

    本テーマである信用調査の個別具体例からその徹底ぶりを洗い出し、そこから社会構造まで敷衍した結論へと導く。
    信用調査の人格重視した側面は江戸社会における「防犯カメラ」の機能を果たしていた。これは、新しい視点。

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    2025年08月03日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    江戸時代の日本人は当時から品行方正であったと、文献に記されることもあるが、そこに寄与していたのはもしかしたら三井大阪両替店のような、いわゆる金貸業だったかもしれない。彼らは家質貸や質物貸をはじめ、江戸幕府から送金を委託された公金を市中に貸し出す延べ為替貸付と言われる形態で銀行業の先駆けを走っていた。当時は貸し倒れを防ぐための借主の信用調査が現代のように容易には行えなかったので、手代と呼ばれる両替店の奉公人たちが手探で情報をかき集めた。実体(真面目、誠実)の評価を得ることが大口で低金利の融資を得ることに繋がっていたため、非常に市中への牽制効果があったと言えるだろう。当時の江戸の経済水準の高さに驚

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    2025年03月20日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    本書は、三井大坂両替店の「事業概要」(第1章)からはじまり、以下、第2章から第5章まで「組織と人事」、「信用調査の方法と技術」、「顧客たちの悲喜こもごも」、「データで読み解く信用調査と成約数」という構成となっている。一般読者向けの新書ではあるが、押さえるべきところは丁寧な説明がなされており、経済史・経営史の専門家が読んでも興味尽きない一書となっている。また筆者は社会史的分析にも金融史の視角が重要であると述べており(エピローグ、pp.245〜50)、その点の意識も行論から垣間見られる。

    第1章では、鴻池や加島屋がほとんど大名貸を中心とした業態であったのに対して、三井が「基本的に民間相手で、小口

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    2024年03月04日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    著者はSNSにおいても積極的に情報を出していてそこでは細部にこだわる著者の気質を窺い知ることができるが、本書では特に第3、4、5部でそれを全面に押し出しているように見える。

    教養書として読むような私のような一般読者には少々冗長に感じるところがあるが、学術書(学術書として立派な別の本も出版されているが)として評価するとその資料価値としては特筆すべきところがあり、著者の歴史学者としての資質を十二分に発揮していると言えるだろう。

    本書ではまず三井両替店の生業である為替業の仕組みを説明している。これはある程度、金融の仕組みを理解していたらまあなんとなく理解できるが、初学者にとっては多少理解に時間が

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    2024年03月01日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    江戸時代の大坂の三井という大金融業からみた歴史。神は細部に宿ると言うが、こういう虫眼鏡で見たような歴史は本当に面白い。
    三井が幕府の特権的地位を生かして有利な条件で取引をしていたことが繰り返し書かれていたが、反面、幕府から冥加金の献上などの強要もあったはず。
    幕府も三井に肩入れする理由もないので、そこはメリットの反面デメリットもあったと思う。
    信用調査について、特記されているが、個人相手のマチキンでないのだから、担保は勿論資産、人柄ぐらいは当然調べるだろう。
    マチキンとの違いやどうやって調べたのか(手代が聞き回ったのか、調査に人を雇ったのか、同心や目明かしから聞いたのが)などが分かればなお面白

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    2025年05月13日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    顧客に貸付を実施するか否かを判断する際の信用調査票(聴合帳)が大変面白い。

    聴合帳には、大阪三郷(今の中央区・西区を中心に北区南部・浪速区及び天王寺区北部辺りになるだろうか)の地名が頻出する。江戸時代の大衆社会や金融に関心がある方は勿論、大阪の歴史や地理に関心がある方にも楽しめる一冊になっていると思う。

    江戸時代の人々が自分と同時代を生きる人々に感じるし、三井グループの強さの源流を見た様な気がした。

    喜久屋書店阿倍野店にて購入。

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    2024年06月29日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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     西日本諸藩は年貢送付のために大阪で両替が必要
      →大坂から江戸へ幕府公金を送金を請け負い
       →幕府公金預かりから御金蔵納入まで90日間の猶予
        →期間を活用して貸付が始まり
         →幕府公金の保護の観点から、債務不履行には優先的に返済命令
         ※公金を長期で貸出、他からの御金蔵納入は黙認された
         
    信用調査:若手の手代が行い、役づきの手代に対して報告
     ・不動産 貸家形態ではなく土地のみを貸す貸地形態を優先
          →利回りよりも、再建費用などリスク考慮
     ・動産  平生取り扱っている商品のみ
          →担保掛目の低さよりも、信用・評判を重視
     成約率は

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    2025年08月09日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    信用調査に関する項が主。
    融資を受けようとすれば、資産はもちろん人柄までも入念に調査されていた。調査においては周囲からの評判なども大いに考慮に入れられていたため、借主となるには普段から品行方正でなければならなかった。両替店の信用調査は防犯カメラのような役割を果たしていたという点は興味深い。

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    2025年02月28日
  • 三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦

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    ネタバレ

    <目次>
    第1章  事業概要
    第2章  組織と人事
    第3章  信用調査の方法と技術
    第4章  顧客たちの悲喜こもごも
    第5章  データで読み解く信用調査と成約数

    <内容>
    江戸時代から続く「三井」。この中心の三井大坂両替店の活動の概要を示した本。三井文庫にある「三井家記録文書」は膨大なデータが残り、そこから読み取れる江戸時代の「両替商」の仕事があからさまになっている。データが細かすぎて、理解できないところも多く、専門書に近い内容か?第4章が面白かった。

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    2024年03月08日