田川基成のレビュー一覧

  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    ネタバレ

     1911年蔚山生まれ、戦時期を東京で過ごし、1946年に密航で再び日本の地に渡った尹徳祚(尹致遠)とその妻・大津登志子、息子・泰玄と娘・逸己の生の軌跡をたどったドキュメンタリー。ライターの望月氏と研究者の宋惠媛氏との協働作業を通じて、戦争と国家・社会のはざまで翻弄された家族が懸命に生きた時間がたどり直される。戦後日本の入管管理政策と朝鮮人政策、戸籍制度がいかに場当たり的で矛盾に満ちたものだったか、そして、その事実に対して日本のマジョリティがいかに無知で無自覚だったかを改めて突きつけられた。そのひとびとも、マジョリティのすぐ近くで生きていたのに。

     おそらくこの本と宋惠媛氏が世に送り出した尹

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    2025年05月19日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    日本の植民地支配からようやく解放された人びとが、祖国朝鮮が貧困と分断、戦乱に陥る中、生き延びるために旧宗主国への「密航」という手段を択ばなければならなかった時代に、その体験を書き残すことができたほぼ唯一の作家、伊紫遠。極貧生活の中で洗濯屋の仕事の合間を縫って小説を書き、若くして死んだ彼とその家族の人生の足どりを、ていねいにたどりなおしていく。
    国籍の剥奪や戸籍の変更など、おおまかな事実としては知っていた帝国日本の崩壊(と再編)にともなうさまざまな政策制度が、個人のうえに轍を刻むときにどれほど残酷なことをするのか、本書を読みながら何度も深くため息をつかなければならなかった。表紙のイラストは、貧し

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    2025年03月19日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    尹紫遠 ユンジャウォン
    植民地期に12歳で渡日し、戦後に「密航」で再渡日する。日本女性と結婚。洗濯屋など仕事をしながら、作家としての活動も続けた。

    彼の数少ない作品や日記,手紙,又三人の子供達のうち今存命の二人の子供達からのインタビューから浮かび上がって来る「尹紫遠」の人生を辿る“旅” 。まさしく二人の著者達と写真家は「尹紫遠」の足跡を一歩一歩訪ね歩く。

    そこから彼と彼の家族が翻弄された“国家,戸籍,外国人登録。教育,労働、福祉,社会保障。”
    戦後日本社会における少数者であるが故に彼らが受けた苦しみ。朝鮮の人々の民族史でもある。

    日本の植民地期、戦前,戦後の朝鮮の人々の苦難については 少

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    2025年02月08日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    一人の在日韓国人とその家族を追ったノンフィクション。実際に転換点となった土地を訪れるルポルタージュでもある。
    日本史において朝鮮人というのは重い存在。事実から目を瞑る人も多いが、消せない歴史であろう。
    併合期の挑戦から日本へ、その後終戦後に朝鮮へ、さらに南北分断のさなかの再来日。海峡を密航する切ない内容。本書の主役尹紫遠(ユンジャウォン)の日記と数少ない小説を題材に家族の歴史を膨らませた良作。

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    2024年09月09日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    心に沁みました。
    「一人の人間の故郷を奪い、そこに戻ることを阻んだ諸要因を肯定するつもりはない。だが、人も場所も変わり続ける。尹紫遠の居場所はとうの昔になくなっていたはずだ。そういうものだろう。 」

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    2024年06月22日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    当たり前のことだけど、私たちは生まれたくて生まれてきたわけではない。いつ何処に生まれてくるかは、ただの偶然‥のはずなのに、なぜこの時代に生きた人々はこんなにも運命の神様に弄ばれるような人生を辿らなければならなかったのか。

    立場と時期は違うけれど、私の両親もほぼこの家族と同世代。多くは語らなかったが京城での生活や帰国時に可愛がっていた犬を置いてきた話などが唐突に思い出され、読んでいる間ずっと「戦争だけはしちゃいかん。得をするのは遠くから指図する人だけ」と話す母の声が聞こえてくるようだった。今、世界で起こっている戦争は日本にいる私達と一直線に繋がっている。無関心、無関係ではいられない。
    資料も多

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    2024年03月26日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    残ってるものの赤裸々さと、残っていないもの、わからないことの重たさが、そのまま丁寧にまとめられていて、ここはわからないんだな、ということの方にむしろ締め付けられるような気持ちになりました。
    家族には、記憶装置としての機能があると聞いたことがあります。お兄ちゃんは麻疹にかかったことあるよとか、おばあちゃんはコーヒーが好きなんだよとか、そういう、他の人にはどうでもいい記憶を、家族は価値判断せずに持っていられる、という意味だったと思います。
    シンプルな幸せとは対極にあるように見える家族が、これほどの記憶を残し整理してきた事実が、意外でもあり、救いのようにも感じました。
    ひとくくりにした属性ではなく、

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    2024年01月25日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    時代や戦争に翻弄されながらも、今より少しでも現状が良くなるようにともがきながらも必死に生きてきた家族のお話。在日在朝関連の本は何冊か読んだけど、今までにはない視点で貴重なお話を読ませてもらいました。戦争をしても誰も幸せになれないのに、その時だけでなく何世代にも影響を及ぼすのに、何故繰り返すのだろう。

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    2024年01月23日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    読書記録68.
    #密航のち洗濯 ときどき作家

    日韓併合の翌年蔚山で生まれた尹紫遠
    裕福な日本の家庭に生まれ尹紫遠に嫁いだ大津登志子
    その子供達のドキュメント

    戦前、戦後の蔚山、釜山、横浜、東京

    日本語が得意で短歌と出会い
    向学心に溢れながらも進学は叶わず
    過酷な肉体労働、極貧生活の中
    自らの苦労の日々を小説として文字に残した尹紫遠

    他にも日本に渡って来た当時からから日記を綴るなど、この時代の在日一世達が書きたかった事、書く事が出来なかった事を残した家族の歴史


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    2024年10月09日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    ネタバレ

    1911年生まれの父は12歳の時、兄を頼って日本に渡り、それから何度も朝鮮との間を行ったり来たりする。その人生を彷彿とさせる小説短歌や日記、子どもたちへのインタビューを元に、貧困の中で生き抜いた生涯を描いている。特に密航の悲惨さや国籍問題など、今も解決されていない移民問題も含めて非常に読み応えのある実録である。

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    2024年09月04日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    装丁からは想像もせぬ壮絶さだった。敗戦時の密航やコレラ船。日本に住むことになってからの差別と困窮。記録されていないだけで、その当時の人の数だけ絶望があったんだよな…と思いを馳せる。描かれている、白人が黒人を蔑む冷たい目、米や露が東洋人を蔑む目、日本人朝鮮人が互いを憎み合う感情、そして徳永ランドリーでも男が女に手をあげる惨状。それで苦労したはずの登志子さんも、後年のボランティアではハンセン病のボランティアでは偏見があったようで…。少し手に障害がある娘の逸己さんが、全てを悟ったような印象で、影ながらこのご家族を支えてらしたように思えた。怒涛の時代の家族の記録。自分の中にもある無意識のうちの差別や偏

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    2024年02月26日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    第一次・二次大戦前後で朝鮮と日本を行き来して生きたとある男の人とその家族をいろいろな資料からみてみる、という本。
    国籍ってこういう形で為政者の都合で決められてしまうこともある。グローバリゼーションや国籍について考える日々だけど、そもそも正常な国交がない時代に無理やり決められたものだってあるのだ。
    国って何だろうね、と思った。

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    2025年11月13日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    著者が日本や第一共和国時代の韓国を批判するのは勝手だ。この本には尹紫遠は金達寿や同じ密航組の尹学準といった当時は総聯に所属して後に「季刊三千里」の同人となった人達と一緒に映った記念写真が掲載されているが、彼は昭和28年に創元社から再版されて翌年に岩波文庫から刊行された金素雲の「朝鮮詩集」の解説を書いている。こんな事は「首領」や朝鮮労働党の指導に反する事を主張すればただでは済まない北朝鮮はもちろん、当時なら韓国でも出来ない。日本に密航したからこそ差別は受けて貧しくても相対的には韓国でも北朝鮮でも体験出来ない自由を味わえたのではないのか?「「在日朝鮮人文学史」のために」は朝聯・民戦・朝鮮総聯の記述

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    2025年09月06日
  • 密航のち洗濯 ときどき作家

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    正直、読みやすさという面では振り仮名漢字がとても多いし、特に他国の漢字名前はすぐに覚えられなくて苦戦した。
    ただ内容的にはとても貴重な内容だと思う。在日朝鮮人、在朝日本人、国際結婚ゆえの国籍問題、事実としてあったことを知らなければならないと私は思う。
    一部本文から伐採させてもらうと
    【あまりの多くの人々が、国家の「安全」の名目で命を奪われ、その犠牲自体が隠蔽されていった。誰かが書かなければ、その死と殺人は忘却の穴に落ちる】
    そうさせてはいけない。

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    2025年07月20日