思想には共感できる一方、方法論の記述が少ないので実効性に欠けるだろうという印象を持った。分量は少なく、手軽に読むことができる。
本書は3つのセクションと合計10の章から構成される。
セクションⅠ 品質リーダーになるには
第1章 品質と価値 / 第2章 3つの品質ナラティブ / 第3章 品質文
...続きを読む化醸成
セクションⅡ 戦略的に品質の意思決定を下す
第4章 手動テストと自動テスト / 第5章 プロダクトの成熟度と品質 / 第6章 継続的テストとフィードバックループ / 第7章 テストインフラへの投資
セクションⅢ 成長を加速させるチームにする
第8章 チームと会社の成長指数 / 第9章 ローカルペルソナ / 第10章 品質戦略のリード
本書では品質に関する文化に注目することが多い。文化に関して提唱されている「3つの品質ナラティブ」はわかりやすい考え方ではある。
> 責任ナラティブ:誰が品質に責任を持つか考えられ、語られている
> テストナラティブ:品質向上につながる正しいテスト技法はどれか・どのツールを使うべきかが考えられ、語られている
> 価値ナラティブ:品質に投資した場合の見返りが考えられ、語られている
> 組織における品質リーダーとして重要なのは、どのナラティブが自分たちを目標から遠ざけているかを認識し、手を打てるようになることだ。(3つの品質ナラティブ p.20)
上記の3点は、気持ちや考え方を変えることで解決する問題ではなく、相当に技術的な解決能力が求められるように感じる。例えば、テストナラティブについて以下のような記述があり、これを解決できるのは技術や知識によってだろう。
> テストナラティブがよくない方向にいってしまうのは、テスト戦略が誰かの手による既存のものの猿まねにすぎないときだ。...10人のエンジニアに同じ機能を実装するように依頼したら、10通りのアプローチを目にすることになる。...テストをどうやるかを考えるにあたって、チームの成熟度・インフラ・予算といったものを考慮しなけえれば、おそらく良い結果にはならないだろう。(3つの品質ナラティブ p.22)
他部署との連携などの文脈でも以下のような記述がある。
> 味方につけたい人が話している言葉やコンテキストを捉え、その人が重要視していることを見つけて、注意をひくような言葉を使って問題をフレーム化しよう。機能や情報ではなく、あなたのアイデアがどんなメリットを提供できるかにフォーカスしよう。特に彼らが心配していることや望んでいることとどんな関わりがあるかを話すべきだ。(品質文化醸成 p.31)
これは相手の業務や組織的な課題を言語化して、それについての解決策を提示する必要があるということを言っていて、とても難しい。
本書を活用するためには、事業責任者やエグゼクティブが読むだけでは足りなく、本書で言及されている領域について手を動かしているエンジニアと共通認識を持ち、一体となって動く必要があるだろうと感じた。
その際に本書の方針に従うと技術的な理解が避けられないことが辛いところではあるが、お互いにとって客観的に理解できる指標(これはおそらく成長指標ではない)を導入して認識を合わせながら進めるのがいいのだろう。