ブルハン・ソンメズのレビュー一覧

  • イスタンブル、イスタンブル

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    『「ここでは、あらゆる物語がイスタンブルの所有に帰すんです」「もう知っとる話をするだけじゃなく、好きな形に作り変えるわけですか」「あなたの父上も同じことをしたんじゃありませんか、キュヘイランさん? イスタンブルの水夫たちを大海に投げ込み、白い鯨を追わせたじゃないですか? 狼の物語の狩人たちを、はるばるイスタンブルへ連れてきたんじゃなかったですか?」』―『五日目 学生のデミルタイの話』

    クルド人と呼ばれる人々の受難はトルコに限らず中東における人権問題としてしばしば語られる。もちろん、それはどの民族的な集団にも起こり得ることで、人為的に引かれた国境線で区切られた国という定義からはみ出してしまう人

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    2024年02月16日
  • イスタンブル、イスタンブル

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    人間は、自身を取り巻く自然を発見しつつその中に生きるのでなく、自ら創造したものの中で生きる。それが自らの生を空虚にすることもあれば、耐えがたい痛みに耐えられる力を与えもする。世界は、都市は、イスタンブルは、そんな人間の在り方が折り重なってできている。そんなことを哲学的かつ詩的に物語っている。
    p195「僕らはイスタンブルに暮らす当たり前の住人たちと同じだった。昨日を理想化し、明日について空想した。今日は存在しないふりをしようとした。過去の物語をする一方で未来の物語をし、現在を、過去と未来の間に架かる橋だと思っていた。その橋が崩壊し、その下の無の空間に墜落することが怖かった。僕らは絶え間なく同じ

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    2024年08月07日
  • イスタンブル、イスタンブル

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    著者のバックグラウンドを知らないと、なかなか理解が進まないはずだ。

    クルド系トルコ人のソンメズ氏は、1980年の軍事クーデターの混乱のなかイスタンブルで法律を学び、人権弁護士として活動していたが、その活動中に警察に襲撃されて瀕死の重傷を負い、その後英国へ亡命。現在はトルコと英国を行き来しながら作家活動をしているが、イスタンブルの街への痛切な思いが、この小説に込められていると言う。

    イスタンブルの地下牢獄の一室に、学生のデミルタイ、温厚なドクター、気難しい床屋のカモが閉じ込められていた。苛烈な拷問を待つあいだ、彼らは互いに物語をして時を過ごす。そこに激しい拷問を受けたばかりの老人キュヘイラン

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    2023年12月31日