記録によれば昨年(2023)の今頃に読んでいる本です、ここ10年程は特定の観点から見た歴史に興味を持っています。この本は「哲学」の関連から共同著者の茂木氏と松本氏が解説しています。思想(哲学)がその国の歴史を大きく動かすことがあるのですね、面白い本に出会えて良かったです。
以下は気になったポイントです。
・アメリカにおいて、特定政党と結びついた大手メディアとビックテック(巨大IT企業)による情報統制が進み、もはや何が真実なのかわからなくなった、2020年のアメリカ大統領選挙をめぐる混乱は、そのことをはっきりと見せてくれた。今の世界を一言で表現すれば「全体主義の復活」「デジタル全体主義の出現」となる(p4)
・複雑怪奇な国際情勢を理解したいなら「歴史」と「哲学」を学ぶことが不可欠である、現在の国際社会の動向は?、表にでない事件の真相は?、これから世界はどこへ向かうのか?、これらを正しく理解し、フェイク・ニュースを見抜く目を養うために、各国の指導者や政策担当者がまず意識していることが歴史と哲学である(p12)
・プーチンはレニングラード大学の恩師(サブチャーク)がソ連崩壊の年にレニングラード市長になった時に、声をかけられて政治の世界に入った。大統領はエリツィンに代わっていたが、彼に若きプーチンが見出されていく(p22)
・なぜプーチンがあれだけの権力を握れたか、1)汚職の摘発、オリガルヒを解体、2)テロとの戦いで治安を回復した、エリツィン時代のカオスを経験したロシア人から見れば、プーチンは救世主に見えた(p29)
・ロシアの置かれた地政学的な弱み、あまりにも長すぎる国境線、それを守ろうと思ったら攻め込まれる前に予防措置として、こっちから出ていくことをやらざるを得ない、チェチェン・ジョージア・クリミア、そして今のウクライナ東部、という4つの紛争・戦争をウヤって国際非難を浴びているが、これは合法的判断、という見方もある(p32)
・ヘーゲル哲学は後の19世紀後半の帝国主義、20世紀の全体主義へと繋がる思想になってしまうが「当時のドイツは弱小国だった」という補助線を引くと理解できる、その意味では同じ途上国であるロシアにとってドイツ哲学は非常に親和性がいい(p38)
・今回のウクライナへの侵攻というロシアの行動に対して、西側諸国が制裁を呼びかけたが、途上国のほとんどが賛同していない、それは途上国がロシアに共感してしまう部分があるから、西側のいう綺麗事をやっていたら自分たちがやられてしまう(p41)
・社会主義が広まる時代がある、それは社会の「流動性がない」時代である、親が貧困だと子供も貧困で、それがずっと固定されて一種の身分制になっている場合、どうしようもないので「今の社会をぶっ潰せ」となる、1789年のフランス革命直前、1917年のロシア革命の直前、1921年の中国共産党の創立の時代もそうであった、社会主義が広まるのは、後進国で起きて当然、となる(p47)
・穏健派のジロンド派が右に座ったから「右翼」あるいは「右派」という言葉ができた、革命に突っ走るアクセル全開の方が左翼で、革命にブレーキをかける方が右翼である(p54)
・人間は私利私欲の塊であって、金儲けに突っ走る汚い存在だ、ということを前提にしている=性悪説である、性悪の人間をそのまま放置しておいたら、世の中はどんどん悪くなる、というとそれは逆で、性悪と性悪は打ち消しあう、競争することによって相殺される(p57)
・ニコライ2世は1914年の第一次世界大戦で対ドイツ戦という愚かなことを始めた、ドイツに連戦連敗し、ロシア国民の不満が爆発し「皇帝のいない国を作ろう、共和制にしよう」となり、国会が帝政の廃止を決議した、こうして400年も続いたロマノフ王朝が崩壊した、これが2月革命である(p73)
・ロシア革命に乗じてウクライナは独立政権を樹立(ウクライナ共和国)している、独立してしまえばモスクワには食料がなくなってしまう、連合国の干渉軍を撃退したソ連軍は、ウクライナ全土を占領してソビエト連邦に編入した、実際にはロシアに再併合された、独立を許すことができないスターリンは、ウクライナ人の数自体を減らして反抗する力を奪う作戦(人工的な大飢饉の引き起こし)をとった(p83)
・ソ連という国はそれまでは「爪弾きもの」であったが、第二次世界大戦によって一躍世界のリーダとなり、国際連合の常任理事国となった、ナチス・ドイツが滅んだ後の欧州については、アメリカとソ連が山分けすることになったので、東欧州はソビエト型の共産党体制が移植された、中国、北朝鮮の建国も同じ流れである(p85)
・戦後日本の自民党政権が実現した「公的年金制度」「企業の終身雇用制度」「企業間の競争を抑える護送船団方式」は、ある意味で、社会主義の良い部分を取り入れた政策だったと言える(p96)
・GAFAなどの大手IT企業、いわゆるビックテックが特定の政治勢力(民主党)と結託、談合してしまうと、言論統制が可能になる、SNSこそが全体主義化する危険性がある(p102)
・現代の全体主義は、その背景にテクノロジーの発達があり、個人がバラバラに慣れる、それだけ豊かさが広がっているのが典型的な現象となる(p105)
・全体主義はイデオロギーだけで考えることはやめた方がいいかもしれない、土地の権力構造など、国や地域の歴史・風土・地政学的な見地から考える必要がある(p120)
・個人が自分の意思を殺して、一般意思の方に従属してしまう、するとその人は主観t期には国家と一体化し、支配される側から支配する側に変わる。国家が要求する一般意思に、自分自身を投影してしまう、自分と一体化した国家への反逆者は許せなくなる。その瞬間に、その人は独裁者の手先になり、自分の家族や恋人までも見殺しにする(p123)
・「和」の精神が日本にある、「和」というのは水平、である。人様という言い方が日本人は好きである、人様に対して申し訳ない、とか、人様が見ています、とか、その人様(他者)は、水平であって垂直でない、つまり常に権力がある全体主義とは根本的に違う(p131)マスクをしようという合意、空気ができると、ほぼ全員がマスクをする。日本人を動かしている要因は「人様とのつながり」である、一見全体主義と誤解されるが、別に罰則もなく政府が強制しているわけでもない、全体主義は人との繋がりが切れて、k人はバラバラで「空気」はなく、あるのは信頼ではなく「恐怖」である(p131)
・日本とイギリスは手を組みやすい、守るるべきものと言えば、日本では皇室であり、イギリスでは王室である。日本では自然崇拝の神道が外来の仏教と融合している、イギリスではケルトの多神教がキリスト教の中に隠れている、妖精の伝説やハロウィンのお祭りは多神教の名残である(p135)
・元々イギリスは合議制であった、それをフランスから来た王様が全て決めようとしたので、伝統を守るために貴族たちは反抗した。マグナカルタで勝ち取った議会の権利というものを守っていかなければいけないという考え方が、主に貴族を中心に受け継げられていった、イギリスでの革命はフランスの革命とは違う、絶対王政を倒し、立憲君主制を実現させたのだが、イギリスの伝統に戻そうとしたので、むしろ「復古」である(p137)
・クロムウェルはピューリタン(国王支配をも全否定)の狂信的な指導者で、国王の首を刎ねた上、イエス像やマリア像を偶像崇拝として破壊した、最終的には自分が神の代理人としてイギリスを支配しようとし、政教一致の新たな独裁体制を作ってしまった。それをもう一回倒して、もとの伝統的な議会政治に戻したのがイギリスの名誉革命である(p138)
・日本では1232年に御成敗式目ができた、中国直輸入の「律令」は日本社会に合っていないから、我々武士団の慣習法を明文化しようということであった。要するに、律令というのはローマ法、押し付けられた法である。それに対して、日本のコモン・ローをまとめたのが御成敗式目でした、イギリスと日本は似ている(p141)
・独立宣言を書いたジェファソンは「もし政府が我々人民の権利を侵す場合には打倒せよ=中央政府は不要、13州はバラバラでいい」という革命条項が入っている、その一方で革命の暴走を警戒するハミルトン(=中央政府は必要、列強国に対抗できない)は、合衆国憲法を作った人物である。アメリカには建国から保守的なグループと革命的なグループがある(p144)
・アメリカは国際連盟を言い出したのに加盟しなかった、憲法上、そうなっている。議会上院の承認なしに、大統領は条約を結べない、そういう仕組みを作ったのがハミルトンであった、大統領が暴走しないように、これが保守主義の一つの流れである(p146)
・帝国憲法の冒頭に、大日本帝国は天皇が治す(しらす)と書いた、「しらす」とは「知る」の類義語で、天皇が民のことをよく知る、民の気持ちをよく知ることで、国がまとまる、という日本古来の考え方である。これに対して、豪族の強権による統治を「うしはく」と呼んで区別した、つまり天皇は古代から象徴的・宗教的な統治者であり、実力による統治者ではなかった(p153)
・日本の「国体」とは、天皇絶対主義ではない「天皇と民が共に国を治める、君民一体」ということである(p160)
・グローバリズムの脅威にどう対抗するかを考える(=ナショナリズムを考える)には、日本の伝統に立ち返った教育が必要になる、日本の保守主義を勉強したい人は、「古事記」「万葉集」「平家物語」「太平記」を読むことから始めるべき(p162)
・流刑にするということは、法的保護の外に置くということ、流刑された罪人の多くは途中で死んでいる、流刑地に行く前に殺されてしまうから。中央政府としては処刑しにくい人間、例えば皇族や公家、証拠不十分で死刑にできない時は、流刑ということにした法的保護の外に置いた。そうした人物には必ず敵対勢力がいるので襲ってくる、これもまた合法化された一種の略奪である(p189)
2023年10月25日作成(推定)
2024年10月26日作成