河林満のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
芥川賞候補作「渇水」を含む3編を収録した短編集。表題作「渇水」は、読後に何とも言えない余韻が残る作品でした。主人公が勤める水道局での「給水停止」業務を通じて、現代の孤独や貧困、社会の冷たさのようなものがじわりと伝わってきます。著者の河林満さん自身が、かつて立川市の水道局で働いていたとのことで、現場の描写にリアリティがあるのも納得です。巻末の解説によると、本作はマルグリット・デュラスの『愛と死、そして生活』に収録されている「水道を止めた男」からインスピレーションを得ているそうです。私はデュラスのその作品を未読なのですが、解説を見る限り内容や構成がかなり似ているような・・・。オマージュ的な位置づけ
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この著者は初めてですが、何かの書評で同書が取り上げられていて、興味を持ち、読み始めました。
主人公は市の水道部で水道料金未納者の家の水を停水する作業を担当する職員。
その主人公が停水した家の小さな女の子二人が自殺と見られる列車事故で下の子が即死、上の子が重体。
主人公は「水なんかただでいい」と呟く人物。継母の環境で育ち、登校拒否の不良だった主人公が転職の末、今の職に就き、アルバイトに来ていた妻と結婚、家を持つのを厭がる主人公、ちょっと用足しにと子供を連れ、実家に行き、2週間あまり帰って来ない妻。
物語りが淡々と描かれ、そこから醸し出される生活感や読者に想像させる登場人物の心情など個人的には上手 -
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『渇水』は、生田斗真主演で映画化されているがこちらは見逃してしまった。
手に取ったのは表題作の渇水を含む全3話の短編。
○渇水〜猛暑の夏に水道局員が、料金未納の提水執行に姉妹の家に行く。父は行方不明で母も姿が見えない中、とりあえずある容器に水を入れさせてから水道をとめる。
その後、姉妹は…。
○海辺のひかり〜亡くなった母の墓を改葬するために土葬していた棺を掘り返す。
○千年の通夜〜同級生の通夜で集まった仲間と過ごす夜。
解説で、彼は死を思い、水に囚われた作家だったとある。
確かにこの3編も死がある。
そして風景に川があり、河口を感じ水の流れを想像してしまう。
実体験を小説にしたもの…の -
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猛暑日が増えてきました。6月12日、私は「渇水」という映画を観て帰った。生田斗真主演の水道局員のお話。門脇麦、磯村勇斗、山崎七海(子役)、柚穂(子役)、尾野真千子出演。その日私は以下の様に映画ノートに記入した。
プロデュースが白石和彌なので、いつ姉妹に悲劇が訪れるのか、いつ岩切さんはブチギレて奈落に堕ちるのか、そんなことばかり考えていた。
水道局職員が水道停止しても、その家族の生死与奪権を持っているわけじゃない。前橋市に節水注意報が出ていて、一時期育児放棄された姉妹に危ない局面もあったかもしれないけど、お姉さんはなかなか知恵が回るので(万引きには手を染めたけど)、なんとか生き延びる。それ以 -
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河林満『渇水』角川文庫。
映画原作の表題作を含む3編を収録した短編集。
河林満は1950年に福島県いわき市に生まれ、一家で都内に移住。立川市役所勤務を経て作家として活躍した後、2008年に永眠している。
表題作の『渇水』が生田斗真主演で映画化されるのを機に文庫で復刊されたようだ。未だに角川商法は健在なようだ。
3編共に人間の死を描いているが、いずれも死ぬことに対して異常な恐れを抱いている著者がそれをひた隠すかのように綴られた短編であった。
『渇水』。1990年の文學界新人賞受賞作。著者の経験に基づいた私小説。何ともやるせない思いだけが残る。ライフラインの中でも命に関わる水道代の未払い -
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表題作の他2編を収録した作品集です。
どれも、美しい解決には至らない、現実を感じさせる作品でした。短編集ではあるのですが、それぞれが妙に読み応えがあり、作中で解明されないちょっとした謎や疑問が残ったままになるところがリアルです。
水と死(または生)をどっしりと描いているような印象でした。
表題作『渇水』は水道局職員の停水執行係の男性の話。水道料金が未納の家庭へ料金の収納、もしくはそれが果たされない場合の最終手段として停水措置を取るという仕事。ある夏、数年未納になっている家庭に停水執行に向かったところ、その家の子どもたちと鉢合わせして、水を止める前に姉妹に水を溜めさせるのだが――。