対談するのは、兼原信克(1959年生まれ。元内閣官房副長官補)、佐々木豊成(1953年生まれ。元内閣官房副長官補)、曽我豪(1962年生まれ。朝日新聞編集委員)、高見澤將林(1955年生まれ。元内閣官房副長官補)という、間近に「権力の使い方」を見てきた面々だ。
改めて調べると、権力とは、他人を支配し従わせる力のこと、とある。恐らくは、その力の動力源となるのが、「ルールや制度で認められた権威、決定権」「権威主義的スコアに裏付けられた影響力 (年齢、信用度、学歴、社会的地位など)」「(それらとやや重なるが)お金など他者の意思や自由を買うもの」「人事・動員力・数の力」「個人や集団の感情・同調性」「危機管理・守られたり養われたり」「印象」「論理」「信仰や道徳」そして「暴力」ではないだろうか。この動力源は、強弱はあるものの、全てがそろっていなくても良い。無職であっても理路整然と道徳を説かれればそれに従うという事は十分にあり得るし、逆に論理破綻していても、奥様のヒステリーが権力化する事もある。
この本で語られる権力の範囲は、概ね、制度や地位による権威から、動員力や論理をカバーする政治分野についてだ。いろんな内輪話が聞けるのが面白い。
― これまでの対外交渉、通商交渉では「ホテル負け」していた、と。なぜかというと、こういう大きな国際交渉ではホテルを一棟借りしてやるわけですが、そのホテルの料金が日本の感覚で言うとむちゃくちゃ高い。1泊3万とか4万とかする。これでは日本の旅費法上、払えないんです。だから日本の交渉団はメインのホテルを離れてちょっと郊外の安いホテルに泊まり、交渉のために毎朝バスに乗って会場に駆けつけていた。するとどうなるか。正式な会議が終わった後にホテルの中のレストランだとか幹部の部屋だとかで行われる合従連衡に加われず、孤立することになる。孤立している上に従来の日本は各省ばらばらだったので、「向こうの省を犠牲にしてうちの省が取ろう」みたいに思っているところがあり、そこを突かれてしまう、と。だから、ちゃんとしたホテルを手配させてくれ。
― アメリカが抜けたTPPが生き残ったのは、日本のおかげです。今世紀に入ってから実現したメガ自由貿易協定は、日・EUとTPPとRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、それから南米のメルコスール (南米南部共同市場)とEUの間の協定で四つなんですけど、そのうちの三つが日本絡みなんですよね。自由貿易促進では主導権を取ったことのない日本が、突然、自由貿易の旗手になってしまった。
先程の動力源は、この本に書かれる事ではなく、いつもの勝手な思い付きなのだが、これは、ジャンケンのように相互に得意不得意がある。例えば、道徳は暴力に弱いが、制度は暴力に強い。しかし制度は危機管理に弱い、信仰は論理に強いなど。それらを組み合わせて、主導権(権力)争いをするわけだ。こうした一部の権力の暴走を避けるために、例えば資本の暴走を回避するために民主主義があったりする。一番怖い組み合わせは何だろう。暴力を手にして信仰を制度化し、集団の感情と道徳を無力化した為政者だろうか。純粋な感情そのものだろうか。