ずっと気になっていて読みたかった作品。
本屋大賞翻訳小説部門1位を受賞したのをきっかけに。
ヒュナム洞書店の店主ヨンジュ、バリスタのミンジュン、個性的な常連客、焙煎士、作家など書店に関わる人たちの物語。
章が細かく区切られているので(40章ほどある)隙間時間に読みやすい本だった。
店主をはじめ、登場
...続きを読む人物みんな家族、仕事など、いろんな悩みを持っていて共感しながら読んだ。そして、書店を通じて出会った人との関わりの中で励まされたり、前を向いて進めたりする。
自分の人生もこれでいいんだって肯定してもらえるような作品だった。
文章がとても素敵で好きなフレーズをたくさん見つけた。作中で引用されている小説の一節も好みで読んでみたいなと思った。
人生に悩んだ時や疲れた時に読み返したい。
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泣きたいときは泣かないと。心が泣いてるときは泣かないとダメなの。我慢してたらなかなか良くならない(P15)
小説は、自分だけの感情から抜け出して他人の感情に寄り添えるところが良い。(P28)
ヨンジュ自身の導き出した答えが、今この瞬間の正解だ。彼女は、正解を抱いて生きながら、時にぶつかり、実験するのが人生だということを知っている。やがて、それまで胸に抱いてきた正解が実は間違いだったことに気づく瞬間がやってくる。そうしたらまた別の正解を抱いて生きていく。それが、平凡なわたしたちの人生。ゆえに、人生の中で正解は変わりつづけるものなのだ。(P31)
沈黙は自分と他人を同時に気遣う行為にもなる得るのだと学んだ。(P40)
ときどき雲の中でぼんやりと物思いにふけっては、また現実的にたくましく生きていく、そのことが彼女の人生をより豊かにするのだ(P47)
本は、なんというか、記憶に残るものではなくて、身体に残るものだとよく思うんです。あるいは、記憶を超えたところにある記憶に残るのかもしれません。記憶に残っていないある文章が、ある物語が、選択の岐路に立った自分を後押ししてくれている気がするんです。何かを選択するとき、その根底にはたいてい自分がそれまでに読んだ本があるということです。それらの本を全部覚えているわけではありません。でも私に影響を与えているんです。(P55)
人を救うことこそ、誰にでもできるわけではない偉大なことなんだって。だから⋯⋯。だから、わたしにどんなことが起こっても、学級委員さん、あなたがくれたカメラは過去にわたしを救ってくれたことがあるってことを、あなたは覚えておく必要がある(P110~P111 チョ・ヘジン『光の護衛』)
本を読むこととコーヒーを淹れることは、似ているところがけっこうあるようだ。たとえば、誰でも気軽に始められるところ、やればやるほどはまっていくところ、一度はまるとなかなか抜け出せないところ、だんだん繊細さが求められるようになるところ、読書の質やコーヒーの質を左右するのは結局、微妙な違いを理解することにかかっているところ、などだ。(P121)
自分がこうやって生きているのはどうしようもないこと。だから受け入れること。自分を責めないこと。悲しまないこと。堂々とすること。(P133)
人生なんてそんなもんでしょ。信じようと思う人の言葉を信じたらいい(P163)
人間って、自分だけが苦しいんじゃないって気づくだけでも、がんばれるの。自分だけが苦しいんだって思ってたけど、実はあの人たちもみんな苦しんでるんだな、って。自分の苦しみはここにそのままあるんだけど、なぜかその重さがちょっと軽くなったような気もして。生まれてから死ぬまで、涸れ井戸に一度も落ちたことのない人なんているかなって考えたら、いないはずだって確信できるの(P189)
幸せは、遠い過去とか、遠い未来にあるわけじゃなかったんです。すぐ目の前にあったんです。(P229)
今が楽しいんだ。それでいいんじゃないのか、生きるってのは(P319)
いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生なんだって。社会的には成功できなかったとしても、一日一日、充実した毎日を送ることができるんだ、その人たちのおかげで(P320)
ちゃんと生きるっていうのは、ちゃんと整理しながら生きることだって、今回わかった。不安だから、とか、気を使って、とか、後悔しそうで、とか言って、整理しないままやり過ごしちゃうことってけっこう多いでしょ。(P326)