【タイトル】
絵を描くのが好きになれる本 一人で手軽に始める日常のスケッチ
イ・ギジュ著/猪川なと訳/翔泳社
【読書メモ】
「絵を描くのが好きになれる本」は、絵を描くことに苦手意識や劣等感を持つ人に向けて、「上手く描く」ことから解放され、「楽しく描く」ことへと意識を転換させてくれる一冊。著者イ・ギジュ自身も独学で絵を学び、YouTubeで気軽に描くコツを発信しているだけあって、肩の力が抜けるようなアドバイスが満載。
本書の特徴は、まず「心のトレーニング」から始めていること。絵を描くことに対する心理的なハードルや、評価への過剰な意識をやわらげ、「自分のために描く」ことの大切さを繰り返し説いている。日常を記録する手段として絵を位置づけ、完成度よりも「自分の視点」や「楽しむこと」を重視する姿勢が印象的だった。
技術面では、線の引き方やハッチング、消失点などの基礎練習を段階的に紹介しつつも、「まずは手を動かすこと」を強調。複雑な風景も「7:3の法則」で大まかに捉え、細部にこだわりすぎずに描くコツが具体的に示されている。人物やペット、車など身近なモチーフを取り上げているので、日常の中でスケッチを始めやすい。
また、間違いを恐れず、失敗も個性として受け入れることを推奨している点が好印象。「うまく描けなくても大丈夫」「楽しんで描くことが大切」と繰り返し背中を押してくれる。絵を描くことが「世界を写す鏡」ではなく「自分を見る窓」だという言葉が心に残った。
認知科学的な理論説明はほとんどないが、実際の練習法や心構えは、無意識のうちに「見る力」を鍛える内容になっている。特に、写真を逆さにして描く、線だけを追う練習などは、頭で考えずに目の前の形や色を素直に写し取る訓練として効果的だと感じた。
SNS時代の「評価されること」へのプレッシャーに悩んでいる人にも、本書の「自分のために描く」という姿勢は救いになるはず。絵が苦手だと感じている人、もう一度描く楽しさを取り戻したい人に強くおすすめしたい一冊。
【印象に残ったフレーズ】
「絵は世界を写す鏡ではなく、自分を見る窓」
「完成度よりも、描いている時間を楽しもう」