細井直子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
現代版アンネの日記と言おうか。ドイツの避難民収容所で、認定を待つマディーナとその家族の話。架空の人物ということで、どの国の紛争から逃げてきたのか、彼女とその家族を縛る伝統や宗教がどの国のものなのか定かではないが、どの国にも当てはまりそうであり、いろいろな難民に思いをはせながら読んだ。
内戦にあったらしい国内の対立はもちろんひどい。でも命からがら逃げてきた先での、伝統だの男のプライドだのに縛られた家族内、施設内での対立、収容所の職員の酷さ、対応する当局の対応の冷たさに、どうして人は平和に生きられないのかと腑が煮え繰り返る。地球の一部が自分のものであって、生まれた場所が違ったからって入る権利がな -
-
Posted by ブクログ
どこからとは特定されていない国から難民としてドイツに逃げてきたマディーナの一家。今は難民認定が降りるかどうかを待ちながら劣悪な収容所で暮らしている。叔母も含めた一家5人でひと部屋を分け合う生活は、狭苦しくて気が変になりそうなほどだけれど、少なくとも生命の危険はない。
マディーナは高校に通ってドイツ語をおぼえ、両親のための通訳までつとめるようになったが、大人は収容所から出ることもできず、ただ停滞したまま無為に生きるしかない。そんななかで父親は、故国の女性蔑視、家父長制の価値観をそのまま持ちつづけ、日々、新たな世界に適応していく娘との距離が広がっていく。
価値観が更新されない親と、新世界に生きる -
-
Posted by ブクログ
棄ててしまった物、失われた物は二度と取り戻すことができない。世の中にはそういう物があるのに、処分しようとする「断捨離」という考え方には真っ向から反対する。その対極にいて、物を棄てられない質の自分にとって、この本の序文は心に響いた。
本書は、12点の「永遠に失われた物」を取り上げている。ただし、その「物」についての解説は最初の一葉程度で、口絵も無く、ただ各章の間の黒いページに墨色で図版があるのみ。それについて知りたければ、Wikipediaなりで調べる必要がある。つまり、本書はそのような「失われた物」についての博物図鑑では無い。
代わりに、もう存在しない物に思いを馳せた、散文詩であったり、紀行文 -
Posted by ブクログ
地図から消えた島、絶滅した生きもの、散佚した古代の詩、燃やされた聖典……。歴史上たしかに存在していながら今は消えてしまった、あるいは存在しないことが明らかになってしまったゆえに忘れ去られてしまった物たちに捧げる、黒と金のレクイエム。
墓石、それともモノリスのような佇まいのハードカバーを開くと、各章ごとが濃い藍色のページで区切られ、そこに鈍金色で刷られた章のモチーフがうっすらと浮かびあがる。それは今はない島が載った海図だったり、一角獣の骨格だったり、廃墟と化した貴族の屋敷の在りし日の姿だったりする。
ドイツでブックデザインの賞を獲ったというのが納得の、一目で惹かれる存在感。中身はまた私好みの -
-
Posted by ブクログ
文章と装丁によって創り上げた「本」という空間、その著者の
ヴィンダーカマー(博物陳列室)に収められた十二の物語。
・はじめに ・緒言
・ツアナキ島・・・失われた島への夢想と島を求める冒険家たち。
・カスピトラ・・・古代ローマのコロッセオ。死せる運命にも
本能を露わにする、絶滅したトラの生き様。
・ゲーリケの一角獣・・・山岳地帯で執筆する数日間のエッセイ。
・サケッティ邸・・・廃墟画家たちと描いた廃墟の運命。
・青衣の少年・・・グレタ・ガルボの漂っているような散歩での独白。
映画「青衣の少年」は「吸血鬼ノスフェラトゥ」の監督の
ムルナウの第一作目。失われた映画にガルボ -
Posted by ブクログ
2021年NHKラジオドイツ語講座のテキストでドイツ文学を毎月一冊紹介していた中から。
失われた物を展示する博物館に陳列された物の背後あるストーリーを、著者の想像を膨らませて書いたエピソード。読み始めて、文章が長い。説明が冗長。教養書読んでるみたい。飲み込みのに頭のしわ使う。しんどいな〜と思いつつ、読み続けると、口語調のストーリー(でも説明くどいけど)もあり、あ、この著者、こんな現代調の話も書けるんだ、と気づく。
失われた物にスポットを当てるアイデアと、本の装飾という著者の作家以外の職業を掛け合わせた作品は、読み物としてのみならず、ハードの本の芸術も鑑賞。失われた物という事で、黒地に薄い絵が -
-