西村武重のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
◼️ 西村武重「ヒグマとの戦い ある老狩猟家の手記」
北海道の原野、密林を駆ける大正・昭和の狩猟記。エトロフ島の探査、狩りも。憧憬、興奮。
絵といえば「釣りキチ三平」のヒグマ編が目に浮かぶ。北海道から三平くんの地元秋田の山に渡ってきたヒグマが人を遅い、やはり北海道から呼んだすご腕の猟師が対決する話だった。クマや原野行は好きなジャンルでよく読んでいる。吉村昭「羆嵐」はもちろん、星野道夫の一連の著作、熊谷達也の直木賞作「邂逅の森」ほかもろもろ。今回はある読書イベントで見かけて購入。択捉島まであるんだ、と胸膨らませて読んだ。
著者の西村武重は明治生まれの人で、大正から昭和にかけて北海道の奥地や北方領土を股にかけて狩猟などを行った。本書は「山と渓谷」への寄稿した作品をまとめた本を再編集し文庫化、5年前に出版したもの。
根室原野ー北海道東部、知床半島の南西、国後島からずっと西に入った広大な原野は野生動物の宝庫だった。著者は標津岳、斜里岳、いまや観光地の摩周湖近辺などで、愛銃ウィンチェスターを手にカモ、ガン、キネズミ、キツネ、ウサギ、そしてヒグマの猟を盛んに行った。山深い川沿いの密林の単独行。冒険心はわかる気がするが、それにしても、想像するだけでコワい。かなり前に観光でこの辺を回ったけども、あまりに広大で北の大自然そのものだった。
大正7年(1918年)の12月、26歳の著者は標津岳のあたりの鞍部、トドマツ、エゾマツ、シラカバなどの大密林にキネズミ猟に出て、雪の降る夕暮れ、12キロ下の温泉までスキーで帰ろうとしていた。すると気配がして、待つうちに大ヒグマが現れた、著者は頭を狙って狙撃、クマは転落した。見に行こうと下りかかったところ、下から登ってくる。10メートルほどに現れたところをまたダーンと一発。クマは咆哮をあげながら踊りかかろうとしたがまた倒れ、転落。しかし三たび這い上がってきて、目の前に恐ろしい姿が。恐怖にかられた著者は二連銃の左右から連発して撃ち、一目散にスキーを飛ばして逃げ帰った。
翌日仕留めてやろうとまた行くとー。あるオチがつく。その写真も掲載してある。しかし恐ろしい、読むだけのゾクゾクで勘弁してほしいくらいの体験だ。
標津川近くでは3メートルにもなろうかとの大ヒグマとの対決も記されている。
この方は、ただ猟をするだけでなく、エトロフ島へは硫黄鉱の採掘企業化のための調査で行っている。鉱物に詳しく、当然ながら森の植生にも知識が豊富、さらには高山植物マニア、おまけにヤマベ釣りは名人クラスの腕前でその道の本も書いている。エトロフ島ではまた、月光の中、絶体絶命のピンチに陥りながら獰猛なヒグマを仕留めている。クマは火花や撃った後の煙を見てその方向に襲いかかってくることがある、だから撃った後は敏速に位置を変える、という鉄則が生きた形。怖い、こわい。
エトロフ島での数々の紀行にもワクワクする。全編にわたり自然や風俗の描写も豊富。アイヌとの交流、その猟の方法、シャモ(和人)とのあつれき、また時代らしく植民の一群がが、網走から根室原野へ山道を120キロも歩くのに同行した顛末など描かれている。
現代ものに比べると、生きもののいのちを省みずホンマにバンバン撃って獲る。クマは毛皮を剥いで、肝を持って帰る。その他は食用というのもあるが、おそらく毛皮や羽根の需要もあるのだろう。身内に不幸があってから殺生を考えるようになっていくのも人間らしい。
期待以上にコワおもしろい読み物だった。他にも著書があるようなのでまた探してみよう。