蛮族であるゲルマン民族の大移動で西ローマ帝国は滅亡した,というのは皆が世界史で習って知っているが,この数十年,少し学説が変化しつつあったらしい.すなわち,「ゲルマン民族は平和裏にローマ帝国に侵入し,支配者の交替はスムーズに行なわれ,ローマ文明はゲルマン民族に受け継がれた」との考え方が広まっていたらし
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本書の主題は,そのような学説を再否定することである.やはりゲルマン民族によってローマ帝国は蹂躙され,ローマ文明は瓦解したのである.著者はその証拠として発掘される年代別の陶器の量の推移に着目している.それによると特に西ローマでは急激に文明が崩壊したことが明らかになった.ローマ帝国の文明は分業体制により大量生産された工業製品が,通過を媒体として,高水準に整備されたインフラを使って帝国領内にくまなく供給されることによって成り立っており,辺境の地でも大量の陶器片が発掘される.一方,蛮族の侵入以降は,国境の兵士たちへの給与の供給が滞り,消費は急速に縮小して,工業の壊滅に至る.
前述の「蛮族平和移行説」を唱えて歴史の改竄を謀っているのが北方ヨーロッパ人(=ゲルマンの末裔でEU内の和合を推進)とアメリカ人(=キリスト教は絶対善であるという考えに執着)であることに納得.