本書は、著者が大学の講義用テキストとして用いることを想定して書き上げた「十五年戦争」の通史である。主要な史実についての解説はもちろん、当時の支配層の考えや国民の意識等を取り上げるなどして戦争の背景や全体像が分かりやすく説明されており、また著者自身の評価や見解が随所にコンパクトに述べられている。ポイントが良く整理されているので一気に通読できるし、通史として信頼するに足る書だと思った次第。
著者は、戦前期日本を「二面的帝国主義」国家と捉える。軍事大国となった日本であったが、資源・貿易関係・国際金融を通じて米英に対して劣位に置かれ、しかも米英に深く依存し、その依存を軍事大国として存立するための不可欠の条件としていた。このように、一面では軍事力を発達させて米英と対抗しながら、多面で米英に依存し、その依存によって軍事大国として自立するという矛盾にみちた二面的な帝国主 義であったとする(25頁)。
こうした矛盾が、対米英協調路線と、それに反発し自給自足圏の確立のために既存の国際秩序の打破を指向する「アジアモンロー主義路線」との対立を招き、対外政策の分裂を増幅したとする。
特に印象に残ったのは、対米開戦に至る経緯の箇所での著者の評価。(215頁)
①駐兵問題の固執すなわち日中戦争の成果をあくまで護持しようとしたことが日米交渉を決裂させ対米英開戦を導いた最大の要因であった。その意味でアジア太平洋戦争は日中戦争の延長であった。
②陸軍が駐兵に固執したのは中国から撤兵=退却すれば「陸軍はガタガタになる」ことを恐れたからであった。その意味でアジア太平洋戦争は軍部がその存在と機構を維持するというエゴイズムを貫くために国家・国民を道連れに遂行した戦争であった。
③天皇・宮中グループにおいては、皇室の安泰を保つことを最優先させて難局にあたることを回避した。その意味でアジア太平洋戦争は天皇以下の宮中グループの無責任なあり方とエゴイズムの産物であった。
こうした著者の考察、評価については肯定、否定様々な意見があると思うが、著者のスタンスが明確に示されていて、戦争責任の問題について考える参考になった。