伝統を受け継ぐだけでなく、次の世代へどう引き継ぎ発展させるか。刀鍛冶の覚悟が詰まった本。 刀を真剣な眼差しで吟味している男性の写真が表紙である。そのカッコよさに表紙買いした。
筆者は大分県の生まれでサラリーマンとして数年働いた後、長野県の刀鍛冶の師匠に弟子入りしたそうだ。厳しい修行時代から話が始まるが、自分の感情に埋没せず俯瞰した語り口が清々しいと感じた。
師匠の下にいる時からコンクールで受賞していた筆者は、埼玉県で独立。その後も様々なコンクールで受賞を重ね、名実ともに現代を代表する刀鍛冶になったのだ。
本書では、刀についての解説も当然含まれており難しく感じる部分もあるが、読むうちに慣れてくる。
特に興味深かったのは、第2章の独立してからの話だ。現代の刀鍛冶は、(良い作品をつくるのは当然だが)経営者でなければならないし、お客とコミュニケーションをとれなければならないし、広報もできなければいけないのだ。バブルの頃までのように、いい刀さえ作っていれば売れるという状況ではないのだ。
刀という文化や刀鍛冶という職業を廃れさせないために、筆者は新しい取り組み(「エヴァンゲリヲンとのコラボ展」や「お刀女子会」の手伝いなど)をしている。そのような柔軟な発想と行動力が、彼をこの世界のトップランナーにしているのだろう。
この10年で100人ほどの刀鍛冶が年齢や経済的事情で廃業していなくなったそうだ。
「自分たちが犠牲を払って伝統文化を守っている貴重な存在だと思っているうちは、この流れは止まらない。そんな世界に有能な人材が入ってくるわけがないのだ。自分たちもろくに食べていけないのに、若い後継者をただ増やそうとするなど無責任としか思えない。生きるということはきとんとお金が稼げるということではないのか。刀鍛冶にはなっても、刀鍛冶のような人間にはなるな。いつか秘伝書を書く時が来るとすれば、最後にそう記したい。」
興味のある方は、ぜひ読んでほしい。