日本語訳のタイトルは原書の『SHE SEDI』の方がしっくり
すると思うのよ。
大学在学中に設立した映画プロダクション「ミラマックス」の
成功で、アメリカ・ハリウッドのみならず、世界の映画界で
押しも押されぬ大プロデューサーとなったハーヴェイ・ワイン
スタイン。
彼が手掛けた映画は日本でも多く公
...続きを読む開されているので、劇場や
テレビ放映で目にした人も多い思う。
そんな大プロデューサーには公にされたら困るいくつもの
秘密があった。
自社の女性従業員や役を欲しがっている若い女優たち複数名に
大しての、性的暴行や性的虐待だ。
何十年にも渡って続けられたワインスタインの蛮行は、ある日、
「ニューヨーク・タイムズ」のオンライン版に告発が掲載され
たことで大反響を呼ぶ。
本書は、一連のワイスタイン事件を追い、関係者に取材し、掲載
にまで漕ぎつけたふたりの女性記者を中心に、調査報道の醍醐味を
感じさてくれる。
アメリカだろうか日本だろうが、性被害に遭った人が声を上げる
には高いハードルがある。ましてや相手が富と名声を手にしていれ
ば猶更だ。
ワインスタインは事が表沙汰にならぬよう、「映画界で仕事を得られ
ようにしてやる」と相手を脅し、多額の示談金を支払い、秘密保持
契約書にサインさせる。
ふたりの女性記者は公で発言することを躊躇う被害者たちに根気よく
連絡を取り、証拠を積み重ね、遂にはワインスタイン周辺の関係者
からの証拠や証言さえも得て、告発に踏み切る。
取材の過程、ワインスタイン側との駆け引きはまるで極上の
ミステリーを読んでいるようで、ドキドキワクワクさせられる。
「ニューヨークタイムズ」の告発が契機となり、性被害に遭いながら
も声を上げることを躊躇っていた女性たちが、「私もそうだった」
と声を上げ始め、以降の「#MeToo」に発展していく。
アメリカの悪口ばかり言っている私だが、アメリカの報道は心底
凄いと思う。権力を持つ者にさえ、容赦しない告発をするのだから。
翻って我が日本。時の権力者に近いゴロツキ記者の起こした性加害
事件を国ぐるみで闇に葬ろうとしたのだからなぁ。アメリカの
ジャーナリズムの足元にも及びませんわ。
某タレント事務所の性加害問題だって、30年以上前に告発があった
時に、後追いしたのは少数の週刊誌と今は亡き月刊誌だったもの。
今回だって、事の発端はBBCからだったしな。
ハーヴェイ・ワインスタイン、ニューヨークとロサンゼルスで起訴
され、禁固39年の刑を受け、現在服役中である。また、被害を受けた
女性たちには合計で20億円以上の賠償金が支払われる予定だ。
「ニューヨークタイムズ」の告発記事は、調査報道の部門で
ピュリッツァー賞を受賞している。
残念ながら、私は映画された作品を見逃してしまった。