ケイト・ウィルヘルムのレビュー一覧

  • 鳥の歌いまは絶え

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    面白すぎる。素晴らしかったです。
    そしてタイトル邦訳があまりにも美しい。

    三代にわたるSF年代記。
    核によって生殖能力を失い滅びゆく人類のうち、サムナー一族だけがクローン技術という慧眼によって生き延びます。
    しかし、クローンたちは旧人類にはない共感能力を有しており、やがて旧人類を排除するようになりました。
    クローンの中でも孤独を経験することで「私」を獲得した女性による第二部、谷で唯一クローンの兄弟を持たない少年による第三部。

    共感能力に優れたクローンたちが、やがて創造性を失っていく展開に圧倒されました。
    芸術とは、表現とは、共感によってのみ評価されるのでも理解されるのでもないんだと思います。

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    2023年10月28日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    環境破壊により不妊が蔓延した人類は滅亡の危機に瀕していた。クローン技術に活路を見出すも、異変が起こり……。

    都市は滅び、動物たちが姿を消し、氷河期が迫るという世界観。人類の存続のために生み出されたクローンの人間たちは強い共感力を持つが、同時に個として生きる力を失っていく。徐々にディストピア化していく世界の変遷が切ない。三部構成のそれぞれが異なる趣を持ち、味わい深いものがある。科学と文明がもたらすもの、人間と自然の調和というようなテーマ性。ラブストーリーを基調に三代に渡って展開する壮大な物語。手塚治虫を彷彿とさせると誰かが言っていたが、確かに。タイトルの名訳から受ける印象通りの傑作だった。

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    2022年07月08日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    地球上のあらゆる生物が生殖機能を喪失しつつあることを知ったデイヴィッドは、クローン技術をつかい種の保存を画策する。仲間とともにシェナンドアの谷に研究所を創設し、研究に明け暮れる彼は、ついにクローン人間を誕生させる。クローン人間はオリジナルと寸分違わない容姿と申し分ない才能を発揮。研究所を発展させ、人類存続の要となるはずだった。だが、クローン人間はオリジナルとは相容れない存在であることを悟ったデイヴィッドは…

    人類がクローンを生み出す一部、クローンだけの谷で異端児が生まれる二部、逼迫するクローンの谷とその行く末を描く三部構成で描かれる本書は、ヒューゴー、ローカス、ジュピター三賞を受賞したケイト・ウィルヘルムの代表長篇です。
    地球上の生物が生殖機能を失う理由を本書では核兵器はじめとする放射能汚染と説明付けています。核兵器の脅威と対面する当時の時代背景を感じられますが、本書の主題はそこにはありません。
    ではクローンが主題かと問われると果たしてそうなのかなぁと首を傾げてしまいます。もちろん、本書の主役はクローンです。本書で描かれるクローンには幾つかの特徴があり、例えば共感性がとても強く、仲間のクローンと離れることを極端に嫌います。クローンも世代を経るにつれ、その特色が強まり、やがては個人(=個性)という概念がなくなります。個性を失くしたクローンは創造性を失い、突発的なトラブルに対処できなくなります。そういった状況にある谷で生まれた異端児、マークはクローン社会の限界を感じ、ついに行動を起こします。これが本書のラスト。こう振り返ると、クローンはあくまで外側であって、大事なのはその中身ではないかと思うのです。多様性というと強引なまとめ方かもしれませんが、生物がその種を連綿と受け継ぐことのできただろうその特性にシンプルに目を向けた物語かなと。ちなみに、そんな物語なのに、デイヴィッドやクローンどもが近親相姦を求める姿には、何か皮肉めいたものを感じざるを得ませんでした。

    いまでこそ多様性というと、ダイバーシティと横文字になり、オーソドックスなテーマなのかもしれません。にも関わらず、本書に魅力を感じたのは、情景豊かな描写により醸し出される荒廃した世界観と、メインとなる登場人物(デイヴィッドやモリーなど)の末路があまりにもマッチしていたからかと。特に二部が印象に残ります。モリーが個性(というか自我?)を獲得する姿は感動的で、まるで人類が火を獲得したかのよう。そんなモリーの結末には、「えぇ、まじか」と思わず声が出てしまうばかり。喪失感を味わうのだけど、それが一番しっくりくる終わらし方。この辺りのうまさにこころを揺さぶられました。最後は(たぶん)希望の持てる幕引きでもあったしね。いい作品でした。

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    2020年07月26日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    ネタバレ

    物語の背景に、今回の疫病騒ぎが重なる。
    かつて、恐竜達が滅んだように、人類もいつか終わりを迎えるのだろう。
    その中で足掻く人々。その遺産を食い潰す新人類。そしてまた、彼らにとっては異端と思える新しい人類が誕生し、彼が成長した時に破綻は訪れる。

    誰が正しいのか、何が正しいのか、それは読んだ人間か判断することだろう。

    ただ、私は自らの生き方に責任を持って、顔をあげて生きたい。

    そう強く思える作品だった。
    流石、名作である。

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    2020年05月06日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    クローン社会が少しずつ創造性を失っていく描写を通して、「人間とは何か」を問いかける、静かな終末世界SFの名作。

    派手な展開はないけれど、その静けさがかえって心に残る。

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    2026年06月26日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    「共感」と「自我」は相対するものなのか……。

    1976年のSF小説
    出だしは“ある田舎の集落”で育った少年の成長が描かれている。
    でもその陰には伝染病、不妊、飢饉、戦争などで人類の終焉が忍び寄っている。
    成長した少年とその一族は、人類維持のための医療・研究とともにひそかにクローン研究を始める。
    生存率、生殖率が「劣化する」というクローン技術の研究は、当初人間(原種)が行っていたが、次第に「クローン」自身の手で行われることになる。

    クローンには従来の人間とは別の特徴があった。
    同じ元からクローン培養された子供たちは「兄弟」「姉妹」として、同じ外見のみならず互いに共感しあうことで精神の安定を図り、社会を形成する。そこには利己的で「何を考えているかわからない」人間(原種)は、次第に隅に追いやられていく。

    二部以降では、人間(原種)はもう存在せず、クローンたちの「兄弟」「姉妹」での社会が形成されているが、問題は解決されていないどころか、元の科学技術を発展させることも次第に廃れていく。
    そこに登場したのが、クローンの中で異質な経験をもとに自然出産で生まれた、「兄弟」を持たない少年。
    彼がクローン社会に巻きおこすものは、人類の未来にとって光明か弊害か……。

    作者は当時の思想である「社会主義」「全体主義」から「個性と集団社会」をテーマにSF小説として描いている。
    現代、「教育の画一性」と「共感力を求める社会風潮」が、SNSの発展とともに問題化している。
    今、我々は、この物語のクローンたちの社会と同様に破滅に向かっているのか……。

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    2023年06月03日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    この作品は1976年に書かれているが、この作品の中の世界では、放射能によって大気が汚染され、旱魃と洪水が起こり、飢饉と感染症がひろがり、地球上の生物が生殖機能を失っていく、とある。
    今、この作品をSF小説、ファンタジー小説、と簡単に思えない複雑な心境だ。

    ある谷に住む一族は研究所を作り、クローン技術によって人類を存続させようとする。
    クローンを生み出すディヴィッドたち人類の章。
    クローンたちがその独自の性質で作り出した世界の中で、自己を見つけ出し出産したモリーの章。
    モリーの子として生まれ、クローン社会の中で孤独に生きるマークの章。
    この中で特に、モリーの章は印象的だった。

    クローンと人類との対比となっているが、今の人間社会の中でも似たような問題はあるように思う。
    物語としては、もっと一つの話として引き込まれたかった感じはあるが、抒情詩のような美しい文章とタイトルもあり満足です。

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    2021年09月11日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    SF。クローン。終末。ディストピア。
    全体的に静かで美しい作品。
    2部のラスト、モリーとマークのやりとりがとても好き。
    サンリオ文庫からの復刊助かります。

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    2020年08月30日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    おもしろかった。わりと重いテーマだと思うのですが、3部構成ですっきりまとまり、読後感が軽くすんでいる。

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    2020年07月23日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    CL 2023.12.4-2023.12.6
    三代にわたる年代記。
    放射能によって絶滅の危機に瀕した人類はクローン人間を生み出し種の存続を図るが、クローンたちは旧人類を排除し始める。
    やがてクローンだけの社会となり、そこでは「個人」はなく、強い共感性でまるで姉妹兄弟で一人の人間のようになっている。その中でモリーは「私」を発見しマークを出産する。クローンではなく。
    そしてクローンではないマークが、衰退していくクローン社会に抗い、新たな人類社会を築こうとする。

    個と共感。1976年の作品ながら全く古びることなく、現代にも通じる問題とも言える。

    それにしても素晴らしい邦題。

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    2023年12月06日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    ネタバレ

    陰鬱に展開し、新しい世代が登場して終わるが、鳥や川魚が居なくなった世界でクローンの社会が果たして持続可能とは私には思えないので希望を感じられなかった

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    2020年12月24日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    人間がいた時代、その後のクローンの時代、またその後のクローンと有性生殖者たちの対立の時代。この三部構成はとても壮大かつ野心的な設定ではあるのですが、なぜか盛り上がりには欠ける作品。

    もちろん、その盛り上がりのなさを、時代の推移を叙事詩のように描いていると捉えれば、それは本作の魅力となるのでしょう。しかし、そのドラマ性の無さにどうしても気持ちがついていかなかったというのが実情です。ただ、くり返すと、読む人が読めば、きっと面白いからこその復刊なのでしょう。

    一つだけすごいと思えたのは、人間がいなくなるという、まさしくポストヒューマンな世界を幻視したことです。本書の発表が1970年代であったことを考えれば、慧眼であったと言ってよいでしょう。

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    2020年08月10日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    放射能汚染により、繁殖能力が低下した社会で存続するためのクローン技術を適応させた世界、という設定。ちょっと古い時代に書かれた話なんだろうな、というのは「放射能」という設定で思ったり。今のSFはコロナのような感染症拡大後とかになるのかなぁ。

    設定されている土地がバージニアなのがなんか懐かしい。南北戦争ではあそこは南側だったし、ちょっと反体制なイメージがありましたよね、今はどうかわかりませんが。
    というわけで単体繁殖の共同意識はわかる気がするんですが、同じ遺伝子構造でも年齢が違ったらその共有は無理そうな気がするんですがどうなんだろう。ま、クローン技術がまだそこまで追い付いていない現代での仮定の話ではあるんですけどね。

    変化に対応できない単一化社会という辺りは少し現代と重なるところがあるかもな〜とか思いながら読みました。面白かったです。

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    2020年08月02日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    出版社のSNSで目にしたあらすじがおもしろそうだったのと、東逸子さんの表紙イラストに惹かれて、馴染みのないSFではあったが予約購入をしてまで挑戦してみた。80ページくらいまでは忍耐が必要だったし、日々の疲れに邪魔をされたりもしたが、100ページくらいからは一気に読めた。つらい場面が多々ありおもしろかったとは表現しにくいが、それでもこの2020年に読めたことが意味を持つのかもしれない。『シェナンドア』の章でモリーが獲得していくものを見守るのはつらくもあったのだけれど、それでも彼女の様子はとても感動的だった。

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    2020年05月23日
  • 鳥の歌いまは絶え

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    77年のヒューゴー賞受賞作だが、その前後はというと、
     75年 ル=グウィン「所有せざる人々」
     76年 ホールドマン「終わりなき戦い」
     77年 本作
     78年 ポール「ゲイトウェイ」
     79年 マッキンタイア「夢の蛇」
     80年 クラーク「楽園の泉」
     81年 ヴィンジ「雪の女王」
     82年 チェリイ「ダウンビロウ・ステーション」
     83年 アシモフ「ファウンデーションの彼方へ」
     84年 ブリン「スタータイド・ライジング」

    と、ある種の政治的状況下にあった、といえなくもない。
    まぁ、ファンダムのことも当時のアメリカ社会の空気感も判りはしないのだけど。

    で、帯ではティプトリーやル=グウィンと並べられているけど、ご当人に女性SF作家としての自意識が強かったとも思えない。
    この後、主戦場をミステリーに移していることをみても、SF作家ではなく商業作家として身を立てることへのモチベーションが強かったんだろう、と思う。

    本作自体は、3つの中編から構成された年代記で、今なら三部作として一編毎に500ページくらい費やされていたのだろうな、と思ってしまう。
    個人的には、普遍的な名作、ではなく、時代の産物、と感じるところだけど。

    今回のカバーイラストも、サンリオ版の「誤読」を引き継いで弓矢を持った女の子(ビーチクは無し)が描かれているけど、これでないと文句言われると思ったんですかね…

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    2020年05月11日