DBJでは、3年ほど前に、水道料金の将来シミュレーションを実施し、「約30年後には、日本全体の水道料金を、現状よりも6割以上値上げしなければならないこととなる可能性がある」という試算結果を公表した。
(引用)日本政策投資銀行Business Research 地域創生と未来志向型官民連携、 PPP
...続きを読む/PFI20年の歩み、「新たなステージ」での活用とその方向性、編著:日本政策投資銀行、日本経済研究所、(一財)日本経済研究所、価値総合研究所、発行:ダイヤモンド・ビジネス企画、発売:ダイヤモンド社、2020年、37
「もう、20年以上が経ったのか」というのが、今の私の心情である。1999年にPFI法が施行され、2019年は20周年という節目を迎えた。PFI法が施行されてすぐ、私も自治体の立場から、法に基づいたある施設建設・運営の案件に携わった。現在のような解説本もなく、全てが手探りであったように思う。その当時、私がPFIや官民連携で思ったことは、財政の平準化であった。民間資金を活用し、建設後に施設整備費を割賦払いする。従来の公設公営であれば、建設整備の前段階から一気に自治体予算が膨らむ。しかし、民間資金を活用できるということは、自治体財政の平準化がはかられ、単年度予算主義のデメリットを解消することができる。もう一つ、黎明期のPFIに携わって感じたことは、民間ノウハウの活用だ。言い換えれば、公共サービスがより”民”に近づいたことである。行政だけでは決して考えられないことが、行政サービスとして提供が可能となる。そこに、今までタブーとさえ思われた部分にまで、民間事業者が入り込んでくる。当時から、私はPFI手法が画期的なものに思えた。
このたび、ダイヤモンド社から、「地域創生と未来志向型官民連携」という書籍が刊行された。この書籍のサブタイトルには、「PPP/PFI 20年の歩み、『新たなステージ』での活用とその方向性」とされている。PFI法が施行されてから20年を振り返ると同時に、今後のPPPのあり方を提言しようと試みているものだ。
特に、本書では、東洋大学経済学部教授・PPP研究センター長の根本祐二氏が「インフラ老朽化問題とPPPの役割」について論じているのが興味深い。根本氏の話は、インフラ老朽化の処方箋から人口減少時代のまちづくりまで話が及ぶ。特に学校プールを廃止して市内の民間スポーツクラブを利用して水泳授業を実施したり、昼は学校、夜は地域住民のための施設として複合化し、タイムシェアの発想で「共用化」することなどの事例は参考になる。学校施設は、公共施設の4割近くを占めるといわれている。そのため、公立小中学校の集約・複合化は、主要なターゲットになってくると思う。そのプロセスに官民連携手法を加えると、新たな解決策が導き出されるようになることが理解できた。
PFIの大きな転換期は、2011年の法の改正だ。このPFI法改正によるコンセッション方式(公共施設等運営権)が導入されたことが大きい。昨今、各自治体は、インフラ長寿命化や公共施設等総合管理計画策定などにより、経営・マネジメント力が問われてくる。莫大なコストがかかるインフラを維持していくためには、本書で指摘するとおり、「トップラインの伸長」と「ボトムライン悪化」の緩和が求められてくる。冒頭に記した水道料金の値上げについては、まさに「ボトムライン」の悪化だ。そこに至らないようにすべく、民間の新しいアイデア・技術導入による新たな取り組みなどが必要となる。
総務省のホームページによると地方公務員数は、令和2年4月1日現在、276万2,020人で、平成6年をピークとして対平成6年比で約52万人減少しているという。また、これからの時代は、コロナ禍におけるまちづくり、AIやIoTなどの情報科学技術の進展など、さらに住民ニーズは多様化し、急速な社会構造変化をもたらす。公務員が減少する中、新たな情報技術革新に対応し、ますます多様化する行政ニーズに応えていくには限界がある。本書を読み、”官民連携”は大きな解をもたらすと感じた。
今後の課題を一つあげるとすれば、全地方公共団体1,788団体のうち、約85%の1,527団体でPFIが実施されていない(本書、70)ということだ。とりわけ、人口20万人未満の市区町村は、その9割が未実施である。私も感心させられたことがあるのだが、比較的人口規模の小さい自治体職員は、一人で何役もこなすことが多い。今後、その多忙を解消し、民間による専門性を取り入れ、多様化・複雑化する行政サービスを提供する。そのために、”官民連携”は大きなキーワードになると感じた。
PPP/ PFIは20年という節目を迎えた。また、未来志向型官民連携も理解できる。しかし、一方で課題もある。「どうすれば、地方公共団体をマネジメントし、多様化する住民サービスに応えることができるのだろうか。」この問いに対して、これからはどの地方公共団体も新たなステージに突入した”官民連携”手法を視野に入れて、政策を展開していかなければならないと感じた。