益尾知佐子のレビュー一覧
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他国はこんな国だと評価する際、私たちはどれだけ確固たる根拠に基づいて考えられているか。私たちがある国に関して持っている情報がどれ恣意的な操作と選択をされてきたかのか。
そういう想像をさせてくれる本だった。
何かを「判断」する前に「理解」が必要だというのは当たり前のようであると同時に詭弁にも聞こえる。なぜなら、国と国との関係という複雑な事象においてはそれを完全に理解することなどほとんど不可能だからだ。また、個々人が他国に関して専門家レベルの理解を持たなければなんらかの判断を下してはいけないわけではないから、理解が必ずしも必要かと言えばそうではないと言える。実際にこの日本には、事実をもとに他国 -
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構成がよく、全体を通した筆者の論旨が明確。
1・2章では総論として、中華人民共和国の革命政権としての性格や、党・軍・国の3系統の分立などを説く。ここが筆者の主張の核になる部分で、タイトルにもある「中国の行動原理」が示されている。
特にエマニュエル・トッドの家族人類学に基づく考察は興味深かった。中国人の家族形態は外婚性共同体家族にあたり、家父長の権限が強い一方で息子間の連帯は希薄になる。このことがトップダウン型の組織秩序や、「潮流を読む」ことの重視といった中国社会の特徴を生み出している、とのこと。
続く3・4章は革命以降の政治史。ここは読んでいて単調に感じる面もあるが、まあこれは仕方がないだ -
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中国関係で読んだ本で一番面白かった。特に、家族観(家父長が強く子供は平等)という古くからの家族制度が中国・ロシアといった強権的な国家体制と関連があり、家父長に権力が集中し、その程度によって子供たちの振る舞いが変わってくる。強ければ従うし、弱ければバラバラになり、死にそうならその後に向けて遠心力が働く。
こうした分析を前提として、中国の国際関係の基本は国内体制であり、国内でのサバイバルのために国外関係は影響されたり、りようされたりする。中央が弱ければ地方発の取り組みが強まり、強ければ中央統制型の仕事ぶりとなる。具体例としての広西チワン族自治区や国家海洋局のケーススタディも具体的なプレイヤーの意 -
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中国の専門家による、中国という国の行動原理について考えを述べたもの。今まで研究してきた中国共産党の歴史をベースに、エマニエル・ドットの主張する「外婚制共同体家族」という特徴を重ね合わせ、中国という国の仕組みを解き明かしている。中国人の知り合いも多いようで、彼らからの情報も説得力を高めている。論理的でとても勉強になる、素晴らしい一冊であった。面白い。
「近代の国際関係システムの特徴は、各国にそれぞれ主権があり、それらに超越する政府が存在しないこと、つまり世界大にみれば無政府状態(アナーキー)であることとされる。その中では、各国は身を守るために他の権威にすがることができない。自国の国力の限界を -
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多くの中国人は、近隣国が中国の文化にひれ伏して朝貢してきたと信じている。そして道徳的な優位性や文化の力によって世界からリスペクトされたいと言う願望が強い。経済力や軍事力によって大国の地位を得ることは、中国人にとって十分ではない。
中国人の世界観では陰謀論がきわめて強い。そして中国共産党は人類の明るい未来「和諧世界」実現のための崇高な任務を負っているということになるのだが70年経っても国内に多くの問題点があるとすれば理論上、「人類の不満」の主な源を国際情勢に求めざるを得ない。
尖閣諸島秋の漁船衝突に端を発する日本に対するレアアースの禁輸やTHAAD配備に対する韓国への不買運動など中国はそれが -
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「おれが中国を世界一の大国にするんだったらこんなことしないわ、なぜこんな振る舞いをするんだ?」って疑問に答えてくれる本。面白いし斬新で大変勉強になった。
中国人は中国は本質的に平和的な存在だと認識しているようで、政府の突然の強硬な言動をとる理由が理解できるとのこと。それを明らかにしようとする。
中国人の世界観を単純に中華思想の一言で片付けることはできず、中華帝国の喪失感や性悪説に基づいた徹底したリアリズム、支持される陰謀論といった様々な要素がある。
ユニークなのが中国の外交政策に家族制度の違いという視点から分析を加えている点である。エマニュエル・トッドの『第三惑星』で扱われたアイディアを使って -
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中国の対外行動について、中国の組織/中国人の組織における意思決定という観点から、中国の家族構成という概念まで掘り下げることによってつかもうという意欲作。
家父長的なトップの力があれば、統制されるが、家父長でありながら組織を締める力が無いと判断されると、下部組織が自由に/中央の統率無く権益拡大に動く。
これを、後者の例として胡錦濤時代を、前者の例として習近平を上げて解説している。
ただし、中央の統率が弱くなれば、中央の統率を失って下部組織が与えられた権限を拡大解釈して対外強硬路線に見える行動をとり、中央の統率が強くなっても、一度とった対外強硬路線を改めるわけでは無いということは、東シナ海をみ -
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一見我々にはとても不思議に見える中国の外交政策について、たんなる中国脅威論とかに依るのではなく、その社会システム•国内態勢から深く考察したとても面白い本でした。
以下、メモ。
現代中国人が持つ3つの世界観
•中華帝国の喪失感
•強烈なリアリズム
•中国共産党内の組織慣習
中国人は安全保障フリークが多く、『誰が強いか』という視点に基づいて国際関係を議論することが多い。
中国は結局力による服従ではなく、心の服従「成し遂げたい。
中国がいま海洋権益に強烈なこだわりを見せるのは、昔欧米列強から、陸ではなく海を通じて蹂躙された苦い経験があるから。
中国国内の共産党の正当性を高めるため、国際圧 -
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著者の生々しい体験が論理の基盤にあるから読んでいて面白いものの(中国にいたことがある人間なら読んでいて頷くはず)、それゆえの議論の弱さも見えてくる。
ごくごく強引に要約すると、
(1) 中国社会は家父長制であり、中国文化は家父長制で説明できる。(それ以外の要因は?本当に家父長制家族的?家族制度が社会を決める?)
(2) 中国政治制度は家父長制とよく似ている。(家父長制で説明できない特徴もあるのでは?共産主義国家、全体主義国家はどれも家父長制と似ている部分があったりするので?)
(3) つまり、家父長制が中国の政治制度を作ったのだ。(なぜ台湾は民主化できたのか?外婚制ではないが同じ家父長制の日本 -
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第一章と終章の内容が特に面白い。
中国人の思考回路を知るのには、いい内容だと思う。
日本は戦後(1945年以降)か、明治以降からの国際関係で物事を判断するが、中国は4000年の歴史感で判断する。国恥の100年と彼らが言うように、欧米に屈辱を受けた1世紀を覆そうと習近平は、必死。
よく考えたら、日本は欧米(特にアメリカ)の影響が強いから民主主義の思考回路だけども、世界で民主主義は少数派である訳で、国際ニュースを見る際にも意識したい点。
以下、メモ。
家父長制ではなく、共同体。
日本:縦に長い階層的権利構造。
中国:ボスを頂点に、残りは平たい構造。
そのため、中国は互いの仕事にかんしょうし -
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本書は、中国の対外行動原理を、中国の国内政治の視点から分析している。特に、社会主義国でありながら市場主義経済を取りれるという「キメラ体制」を選択しつつも、70年間中国を統治し続けている中国共産党に焦点を当てている。
第1章で、全体の基礎作業として、中国がどのように世界を見ているかが論じられる。中国の世界観が「脅威」の存在を強調する傾向にあることが指摘される。
第2章では、社会組織の基盤となるものとして「家族」に着目する。フランスの社会学者エマニュエル・トッドの研究を参照して、中国の伝統的な家族制度を日本との比較で論じ、中国の社会組織や社会秩序の構造や特徴を捉えていく。それによると、中国の伝統的