本書は、中国の対外行動原理を、中国の国内政治の視点から分析している。特に、社会主義国でありながら市場主義経済を取りれるという「キメラ体制」を選択しつつも、70年間中国を統治し続けている中国共産党に焦点を当てている。
第1章で、全体の基礎作業として、中国がどのように世界を見ているかが論じられる。中国の世界観が「脅威」の存在を強調する傾向にあることが指摘される。
第2章では、社会組織の基盤となるものとして「家族」に着目する。フランスの社会学者エマニュエル・トッドの研究を参照して、中国の伝統的な家族制度を日本との比較で論じ、中国の社会組織や社会秩序の構造や特徴を捉えていく。それによると、中国の伝統的家族の形態は、家父長が強い権威を持つ「外婚制共同体家族」であり、それを反映して、中国の社会組織には、1)権威が最高指導者に一点集中する、2)組織内分業についてボスが独断で決める、3)同レベルの部署同市は上の指示がない限り助け合わない、4)トップの寿命や時々の考え方によって波が生じるので、その潮流を読もうとする、といった特徴があるという。中国共産党に当てはめると、「党中央」(党中央政治局常務委員会)という家父長の下に、党、軍、国家という3系統それぞれに多数の息子たちが並列する構図となる。
第3章、第4章は、家父長たる中国共産党トップのバイオリズムによって組織の動き方に波が生じる様子を、中国共産党の政治史を振り返りながら検証している。第3章は毛沢東時代を、第4章は鄧小平以降の「キメラ時代」を取り扱っている。
第5章、第6章は、中国の国内政治からその対外行動を考察するケーススタディである。第5章は広西チワン族自治区政府の経済行動を、第6章は国家海洋局の組織史を取り上げている。
終章では、これまでの議論に基づき、国内社会との関係性に考慮しながら習近平の対外政策を評価している。
著者自身が「研究者としての自分をなかば振り切り、専門分野を度外視して、できるだけ直感的な説明を心がけ」、「緻密な論理構成が求められる学術論文では書けないざっくりさで、中国社会がいつ、どうして特定の動きをするのか、そのリズムが中国の対外行動にどう影響するのかを自分なりに提示した」と述べているように、本書で開陳される伝統的な家族形態を基とした「中国の行動原理」は実証性の点で不十分であることは否めず(根拠として示されるのは著者が個人的に経験したエピソードがほとんど)、壮大な仮説といえるものだと思うが、しかし、非常に納得感のあるものであった。中国共産党トップの凝集力が中国政治においていかに重要かということが理解できた。習近平が正統派の家父長を目指しているということもよくわかった。
余談だが、「中国の組織は、部下たちが「この人を怒らせると怖い」と感じるようでなければ機能しない。中国の指導者に笑顔や親しみやすさは不要である」(76頁)という記述を読み、習近平がくまのプーさんに似ているというネット上の記述が当局により削除されているというエピソードを思い起こした。