峯陽一(1961年~)は、南部アフリカ経済論を専門とするアフリカ地域研究者・国際関係学者で、同志社大学教授。
本書は、2100年には、アジアとアフリカの人びとが世界人口のおよそ4割ずつ、合計8割を占めるという予想に基づいて、2100年に世界はどうなっているのか、どうなっているべきなのか、また、その世
...続きを読む界の中で日本の位置付けはどうなっているのか、どうなっているべきなのかを予測、検討したものである。
21世紀最初の年(2001年)の世界の人口は約62.2億人で、うち、アジアは37.8億人、南北アメリカは8.5億人、アフリカは8.4億人、ヨーロッパは7.3億人、オセアニアは0.3億人である。ところが、国連経済社会局人口部の予測によると、21世紀最後の年(2100年)には、世界の人口は111.8億人に増え、そのうち、アジアは47.8億人、アフリカは44.7億人、南北アメリカは12.1億人、ヨーロッパは6.5億人、オセアニアは0.7億人である。即ち、今から100年も経たないうちに、アジアとアフリカが世界人口のおよそ4割ずつ、合計して8割を占めるようになっているのである。
本書では、まず、上記のアジアとアフリカを中心に世界の人口動態について、その予測の確からしさを含めて、検討している。そして次に、アジアとアフリカ(著者はこの2つを括る地理的概念として、歴史家A.トインビーがかつて使った「アフラシア」という言葉を採用している)の歴史と社会経済を概観し、現代においては、経済成長の重点が西方から東方へ回帰しつつあることを指摘し、次いで、アジアとアフリカの国際関係と文化について論じ、最後に、アフラシアという共同体の可能性について述べている。
上記の展開の中で、マルサスの『人口論』、ローマ・クラブの報告書『成長の限界』、サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』など、様々な学者の文献が引用されているが、私が強く関心をもったのは、
ドイツの経済学者A.G.フランクの「1400年頃から1800年頃までの4世紀にわたり、世界経済の中心はアジア、とりわけ東アジア、なかでも中国であり、西洋は東洋にぶら下がる周辺部だった」(『リオリエント』(1998年))、米国の経済学者ケネス・ポメランツの「西洋が単独で成長する「大分岐」のプロセスが始まるのは18世紀からのことにすぎず、それ以前は東と西の先進地域、すなわち中国の長江デルタとイングランドは双子のようだった。その後、後者だけが劇的な産業革命の時代を迎えることができたのは、本質的には偶然の結果に過ぎない」(『大分岐』(2000年))、イタリアの経済学者ジョヴァンニ・アリギの「東洋世界とりわけ中国こそが内発的で自然な(アダム・)スミス的経済発展の径路をたどったのであり、西洋世界の方は、軍事力と対外貿易に依存する不自然な発展径路をたどった」(『北京のアダム・スミス』(2007年))などに見られる、西洋の方が本質的に優れていた、あるいは東洋は西洋のモデルからの逸脱だったと主張することは不適切だという考え方が、学術の世界で広く受け入れられるようになってきているということであった。
今後アフラシアの人口が増加し、世界におけるその位置付けが高まっていくであろうことは、直感に合致しており、違和感なく読み進めることができるが、そのアフラシアが、如何にして外にも内にも敵を作らない温和な共同体となっていけるか、日本はそのために何ができるか、考えを深めていくことが最も大事なのだと思う。
(2019年10月了)