トム・フィリップスのレビュー一覧
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人類の「発展」の歴史のなかには、びっくりするほどたくさんの大失敗が存在する。それを面白おかしく、紹介してくれるのが本書だ。酷すぎて笑えない事例も多く含まれる。
まずは「頭のおかしい」皇帝たちの話。君主制によくある話だが、オスマン帝国においても、世継ぎを争う血なまぐさい争いが繰り広げられた。争いが大きくならないよう、いちど皇帝が決まると、その兄弟を殺すならわしがあった。だが、後継がいない状態で皇帝が死んでしまい、兄弟もいなかったとすれば王朝は途絶えてしまう。だから保険のためにスペアの兄弟を残しておいて「鳥かご」に入れることを思いつく。ムスタファ一世は、兄の死去に伴い「鳥かご」から出されて皇帝になったが、もっぱらクスクス笑い続け、重要な報告の最中に宰相の顎ひげを引っ張り、ターバンをはたき落とした。それも無理はない。生まれてこのかた、最初の12年は兄に命を狙われて過ごし、次の14年は「鳥かご」に監禁されてアヘンを吸い、女とだらだら過ごしていただけなのだから。あまりに酷かったので、前王の息子オスマン二世に倒されて「鳥かご」に戻された。これで一安心かと思いきや、オスマン二世は軍部といざこざを起こして殺されてしまう。「頭のおかしい」ムスタファ一世の返り咲きだ。幽閉中に正気に戻るわけもなく、酷い政治を続けたのでまた退位させられて、今度はムラト四世が王位についた。彼は「鳥かご」出身者ではなかったが、とりわけ頭がおかしかった。コーヒー禁止令を出して大衆の怒りを買うだけでなく、隠れてコーヒーを飲む者がいれば、じきじきに町を夜廻して斬り殺した。そして、少しでも気に食わないことがあると、聞いている音楽がよくないとか、話し声がうるさいとか、女だからとかという理由(!?!?)で処刑した。最終的には酔っ払って出会い頭に見つけた者を斬り殺していた。ムラト四世が肝硬変で死ぬと、イブラヒムが「鳥かご」から出てきて即位した。もちろん、頭がおかしかった!性的嗜好が行き過ぎており高価な毛皮が大好きで国費は枯渇した。彼も退位させられて、封建的な絶対君主制から現代の官僚制に移行していくことになる。オスマン帝国は存続し、めでたしめでたし!いや、犠牲を払い過ぎだ。
ところ変わりまして、中国。毛沢東主席は、その公衆衛生対策が導く結果への配慮が欠けていたために、何千万人もの死を招くことになった。
マラリアを広める蚊、ペストを広めるドブネズミを撲滅するだけでなく、(専門家の意見をろくに聞きもしないで)ハエとスズメも撲滅することにした。鬱陶しいからからという理由と、穀物を喰らうからという理由によってだ。それは徹底的に行われた。子どもからお年寄りまで中国人全員が義務を果たすべく、ハエ叩きから拳銃まで携えて武装し、「戦士たるもの、戦いに勝つまで撤退してはならない」と「人民日報」は書いた。そして、人びとは戦闘に勝利した。その戦闘の結果、推定1億羽のスズメが駆除されたが、突如として天敵のいなくなった中国のイナゴは、毎日が正月だとばかりに祝い始めた。集団になって巨大な雲のようになって作物を荒らしまわったのだ。そして大飢饉になった。
ここから得られた教訓としては、(その影響があらかじめ分かっていない限り)自然を荒らしてはならないということだが、2004年に中国政府はSARSウイルスの発生を受けて、哺乳類の大量駆除を命じている。
アメリカでも全世界を巻き込んだ大失敗があった。しかもこちらはほとんど確信犯だ。むかし、自動車はよく「ノッキング」した。つまり、坂道を登る時など、エンジンに負荷がかかるとガタガタと揺れて車の動きが悪くなる。発明家のトマス・ジミリーはこれを解決するため、ガソリンに混ぜて使うアンチノック剤の開発を試みる。最初に見つかったのはヨウ素だったが、ヨウ素は高価すぎてダメだ。その代わりに見つけたのが鉛だった。しかし、鉛には毒があり、高血圧や肝臓疾患、(特に子どもの)脳の損傷の原因となる。鉛の毒性は何千年も前から知られていた周知の事実であったにもかかわらず、アンチノック材として鉛が使われ、全世界で利用されてしまう。結果、多くの心臓病や知的発達障害をもたらすことになった。しかもタチが悪いことに、ジミリーはその時点で無害なアンチノック剤を見つけていた。エタノール、つまりアルコールである。ただ、エタノールは自宅でも簡単に作れるし、酒屋から酒を買ってきて入れるだけだから商品化しても儲からないぞ、となって却下されてしまっていた(!?!?)。
有鉛ガソリンは今では使用されなくなったが、人類はいまも二酸化炭素を排出し続けている。温暖化、気候変動が進んでも、二酸化炭素がその証拠であるという確たる証拠はないと言って、目を塞いでどんどん石炭を燃やす。これまでしてきたように、今回も大失敗するだろうか。本書をよめば、多分そうだろうと思わざるを得ない。人間の脳はあんぽんたんにできているのだ。しかし、あるいは、もしかしてもしかすると、本書がベストセラーになった今、今度こそ歴史から学んで違う選択ができるようになるかもしれない。
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面白かった、というのを躊躇するほどの人類の愚行だが、やはり面白かった。podcastのコテンラジオの中でも登場していたエピソードや歴史背景が幾つかあり、それも個人的な興味と理解を深めてくれた。訳の問題でもあるのか、イギリス特有のブラックジョークなのか、所々あまりにブラックな皮肉の表現が読んでいて気になった。世界史や教科書では隠されがちな、失敗談に焦点を当て、私たち人間の愚かさと直面化させてくれた。未来から過去を判断することはとても簡単で、当時の判断はとても馬鹿げた判断のように見える。だが、恐らくここに書かれている以上の複雑な人間の心理状況や歴史的背景、当時の空気感があっての判断だったのだろうと思いを馳せた。歴史は勝者が作り、都合の悪い事実は消されがち、埋もれがちである。失敗だからこそ、学べることはあるだろうに。気をつけて世界や状況を見なくちゃいけない。
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<目次>
第1章 人類の脳はあんぽんたんにできている
第2章 やみくもに環境を変化させたつけ
第3章 気安く生物を移動させたしっぺ返し
第4章 統治に向いていなかった専制君主たち
第5章 誰が誰をどう選ぶの民主主義
第6章 人類の戦争好きは下手の横好き
第7章 残酷な植民地政策をヘマばかり
第8章 外交の決断が国の存亡を決める
第9章 テクノロジーは人類を救うのか
第10章 人類が失敗を予測できなかった歴史
<内容>
人類が地球上でしでかしたことを「失敗」という視点でまとめたもの。語り口の柔らかさ(?くだらなさ)が読むスピードを加速させてくれる。第4~8章は、世界史部門で、専制君主の失敗談が一番面白かったかな? -
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いつの時代にも嘘はある。権力を持っていようと持っていなくても、誰でも嘘はつく。しかし、影響力の大きい人間がつく嘘はパワーが桁外れだ。
思い込みが激しくなると見抜けなくようだ。例に挙がっているのは、西アフリカにあるコング山脈だ。セネガル西部の平原からギニアの最北端に至るまで裾野が広がっている書かれていた。
しかし、コング山脈は実在しなかった。それなのにそこに行ったことがあるという探検家たちの発言に食いついて、確かめもせず想像だけで行間を埋めた結果だった。
人間の見たいものだけを見たいという欲求の悪い方向へ進んだ成れの果てだな。「妄想特急」は出発するとどうにも止まらなくなるようだ。
フェイクニュースは人類がいる限りなくなることはない。嘘で生計を立てている悪がいる限り。
除夜の鐘を聞いても嘘の煩悩が取れることはまずない。 -
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- 前半は、古代から現代までのさまざまな終末の予言、預言者、それを信じた人々の話。その後、終末論と戦争・内乱、彗星など終末の予兆、終末の予言と外れた後の言い訳や行動、核戦争・小惑星の衝突・AI・気候変動などによる危機、終末に備えるプレッパーなどを描いている。
- 参考文献も多く、幅広く俎上に乗せているのだが、焦点が絞られておらず、読後感はいまひとつ。
- 終末論がキリスト教(または他の一神教)をベースにしたものも多く、馴染みがうすいことも要因かもしれない。
- 歴史書としては欧米中心であり(中国も太平天国の乱以外は詳しく述べられていない)、現代の危機を描くにはそれぞれの危機について深く考察されていない。
- また、プレッパーや福音派、陰謀論にも軽く触れるにとどまり、現代の状況を十分分析していないように感じる。
- 好みの問題とは思うが、プレッパーや福音派、陰謀論から実際の危機の可能性を考察したり、歴史的な事象を描いたほうが興味深く読めたと思う。
- 【原題】
A Brief History of the F*cking World
- 【目次】
1章 いつだって天は落ちてくる
2章 ポップな終末
3章 終わりの始まり
4章 北欧神話と世界の先住民の終末
5章 この世界の終わり
6章 どこにでもある小さな終末
7章 啓示と革命
8章 すべての戦争を終わらせる戦争
9章 予言と前兆
10章 火曜日にずっと待っていたけれど、親愛なるイエス様は来なかった
11章 世界の果てからのポストカード
12章 世界はこうして終わる――不可抗力による世界の終わり
13章 世界はこうして終わる――自ら招く世界の終わり
14章 終末の現在地
謝辞
訳者あとがき
参考文献 -
Posted by ブクログ
タイトルを見て、興味を持って購入
タイトル通り、人類がしでかした大失敗について、ユーモアを交えながら、失敗の中身ごとに分類した形でまとめられていました
人類は将来を見据えることができなくて、欲を優先して決断する生き物だから、いつまで経っても同じ失敗を繰り返す、ということかなと思いました
その繰り返すサイクル、速度が、時代が進むにつれ、技術が発達するにつれて加速度的に早まっていることも認識できました
わかっているのに、失敗を繰り返してしまうことこそ、人間らしさである、ということがわかり、複雑な気持ちになりました
最後に、とある人物の写真が唐突に出てきて締めくくられるのですが、あー切ないけどなるほど、と思い思わず苦笑してしまいました
昨今の地球温暖化や、繰り返される戦争、凄いモノやことを産み出した優秀な人たちが産み出したときに語った将来に対する希望、予想がことごとく外し続けている系譜、笑えるけど笑えないなぁと感じました
ヒトラーが間抜けでバカにされていたが故に、周囲が油断して放置していたことが、あの悲劇的な結末に繋がった、という話が一番印象的でした