ライターがいい仕事をする人だなと思った。声優という仕事の要点がきちんと伝わるようにまとめられている。それだけでなく母親が結婚離婚を繰り返した奔放な人で祖父母に可愛がられて育った、若いころパトロンの出資で二丁目で店を経営していたが円満に卒業して役者仲間が集まるようになったら潰れた、なんてエピソードは声
...続きを読む優と関係なくても中尾氏の人となりが伝わる重要なエピソードだ。
「演技」「普通」の捉え方、息を最初に考えるということは朗読・音訳活動者にも役立つ。
P15 洋画吹き替えやゲームなどでは「抜く」ということはあります。いわゆるそのキャストだけ別取りすることです。声をあてるのが声優ではない場合、どうしてもスケジュールが合わなければ別録りということになります。【中略】「マイクワーク」というのが、声優以外では難しく、かえって一緒にできない理由でもあります。
P21 私、いつも言っているんです。「オーディションは落ちて当たり前」 とても頑張っている、私もいいなと思う人たちに対してです。それでもオーディションは落ちるんですから。なぜって、実力がある人が上から順番に格付けされていてそのとおりにキャスティングされるのならオーディションの必要なんてないんです。一つの作品は様々な要素が組み合わさって一つの世界観を作ります。そこに必要な人が必要なだけ参加するんです。だからいちいち落ち込むことはないし、必要以上に自信を失うこともありません。【中略】「自分の何が悪かったんですかね」「何も悪くないよ」「じゃあなんでダメだったんですかね」「たまたまだよ」そういうことだと思っています。
P114 演技においての「普通」とは、実生活の「日常」を指しません。勉強中の若い子はそこで勘違いしてしまうことが結構あって、本当に普段通りにしゃべってしまう人が多くいます。普通にしゃべっているように聞かせるためには技術を身に着けなくてはいけないということがなかなか伝わりづらい。
違和感のない、作品やキャラクターに合わせた声の出し方、口調は毎回探さなくてはいけません。私は「匂いを探す」という言い方をすることもありますが、演技におけるナチュラルは全部異なります。
P116 表現に関わる人はわりと「自分は特別」という自意識があって、言ってしまえば性格が曲がっている人たち、はみ出し者…言い過ぎですかね、ともかくそういう人が昔は多かった。今の人たちは一定の型にはまろうとしている節があります。
P136 実際の俳優の粋を盗む、そのうえでそれを再現できれば、英語から日本語に置き換えてもきちんとしたセリフになります。いつもレッスンでは息を合わせることをやっています。合わせることができれば逆に外すこともできる。
P138 陥りがちなのは「言葉ありき」「セリフありき」でやってしまうこと。言葉やセリフを細かく見ていくと、息を吸って、吐いて、声帯をふるわせて、音になり、それがつながってはじめて言葉になる。でもそれをはしょって言葉のことばかりかんがえていると、呼吸がおろそかになってしまいます。【中略】最近のアニメの作画には極めて質が高く「絵の演技」が相当にレベルが高く、受け取る情報が多いものもありますが、それはごく一部で、やはり現実の身体とは異なります。それこそ「命のないものに息を吹き込む」ということだと思います。作品の世界観を理解すること、キャラクターの人物像を理解すること、そして、演出をきっちり見ること。そのうえで「息」を作る。