問題集というか参考書だ。
表紙のセンスが極めて良かったので惹かれたのだが、ページを開くと気分は受験生。
前もどこかで書いたが、数学は積み上げ式の学問。四則演算が分からなければ三角関数や微分積分は理解できない。公式が分からなければ、球の体積は求められない(公式を発明するなら別だが)。つまり、例えば、学校を休んだ時に何か必要なパーツを失い、それにより数学の落ちこぼれになるという可能性が大いにある。その点では、身体の強さと数学のテストの相関を見てみると面白いかもしれない。ある意味ではそうした補講の機能を果たす「塾通い」なんかは、世帯収入と学力(試験結果)の相関を示すという点で有力だ。
他方、受験というのはその年齢で人生の分岐を向かえるという点ではどうなのだろうか。勿論幾らでも取り返しは利くのだが、現実問題、自らの選択にその後も流されていく可能性が高く、修正は簡単な事ではない。その年齢ではまだ選挙権はない。だが、そこで人生を大きく左右する〈文系、理系〉という大きな選択を迫られる。しかも、その選択は、何かしらの偶発的な体験により「自分は数学が苦手だ」という意識を植え付けられた結果によるのだ。
たまたま休んだ日、たまたま合わなかった教師、たまたま恥をかいた黒板の前—— こうした些細な出来事が、不可逆的に進路選択に影響する。学校制度はそれを「能力差」や「向き不向き」として処理してしまう。結果、「数学が苦手」という自己物語が早期に内面化される。この点で、数学嫌いは認知の問題というより、履歴の問題だといえる。
さて、本書の話に戻るが、それを取り戻せるかのような「文系編集者がわかるまで書き直した」という書きぶり。だが、どうだろうか。がっつり数学の本だ。しかも、問題文のすぐ下に、その解答とは異なる証明があり、その後に例題が続くような流れがとても分かりにくい。問題の解答は章末にあるが、答えだけで説明は省略。普通に「問題の解説」をしていけば良かったのでは。
表紙を改めてよく見ると小さな文字で「読むからには、少しの覚悟は必要です」。
なんじゃそりゃ。