著者は大学卒業後に三菱商事に入社し中国チームを経験した興梠 一郎さん。この方、バークレーの修士過程を終了後、外大の修士過程を終了していたりして、意外と学者肌なのかもしれない。外務省の専門調査員・分析員されている。
その興梠さんが明かす中国分析の秘訣は、かつては『人民日報』や『新華社』といった公式情
...続きを読む報を読み解くことだったが、これからの中国を読み解く鍵は、「目覚めた民衆の民意」であるという。これからの中国にとって乗り越えなければいけないハードルは、民主化ができるかどうかである。だから、微博(ウェイボー=中国版ツィッター)などをチェックし、中国共産党の主張だけでなく、民衆が何を考えているかを分析するという。
民主化といえば「08憲章」も話題になった。エッセンスを取り出すと、①一党独裁の特権廃止、②軍の国家化、③土地の私有化、④全国民に社会保障を、ということになる。いずれもいまの中国に欠けているものばかりであるが、「08憲章」では膨大な実名の署名が入ったので当局はパニックになった。劉暁波を逮捕・投獄しただけでなく、署名した人々も警察に呼び出されて尋問を受けるなど、中国社会に大きな波紋を広げた。習近平体制派、これらの問題を避けては通れない。
習近平体制になるにあたり、江沢民と胡錦濤との争いがあったという解説も分かりやすい。胡錦濤は江沢民に負けたのではなく、一歩退いて二歩進んだと見る。地盤を固めて引退したという。おまけに江沢民とは異なり、軍事員会主席のポストさえも習近平にあっさりと明け渡した。潔いという名声を得たということになる。胡錦濤は名を捨てて実を取ったと著者は分析する。
この興梠さんの分析は分かりやすくて的確に思えた。中国のことを知りたいときは、この人の本を読むのがいいかもしれない。