最近は推理小説を中心に読んでいたので、この本も気になったため読んでみた。
プロローグ、エピローグと全3章からなる構成。
3章それぞれ裏という名で真相解明の章が存在する。
各章のあらすじは
第1章は女性に宛てられた差出人不明の恋文の差出人を探してほしい、依頼人の女性が差出人の候補が2名までに絞れているのでそのどちらが私に好意をもっているのか知りたい、という話
第2章は行方不明の弟を探してほしい、という話
第3章は主人公兎田谷朔に弟子入りしていた書生が逮捕され、その妹から兄の無罪を証明してほしい、またそれに関連するかもしれないから屋敷にある蔵を調査してほしい、という話
である。
1章を除き、2章3章は依頼人が大事なことを伏せたり嘘をついたりしているのでこれがタイトルにあるウソつきの1つ目の私の解釈(2つ目は後述)。
推理ものとしては推理に必要な材料が少なく、謎ときを楽しみに読んでいる人にとっては物足りないものだと思う。
しかし、この本の重要な部分は各章にある裏と名付けられた真相解明の章の部分にあるといえる。
この章は言ってしまえば救済と呼べるようなものであり、
この救済にあたる部分を描いた主人公が、いつも嘘をついたと言って、普段の彼の素行や言動からして自身の手柄だと素直に認めないであろう彼の粋がもう1つのウソつきの解釈だと私は考える。
また主人公の言動は嘘をつくというよりは言葉に含みを持たせているといった方が正しいかもしれない。
私がこの本を読んでいて唯一辛かったことは、1章ずつ小休憩をはさみながら読んでいたため、その度に人の名前を覚えるのが苦手な私にとって兎田谷(うさいだや)という苗字が読めなくなって辛かったことくらいである。
また1章は物語の序章として仕方ないが、2章と3章を1つずつの長編としてもっとじっくり読んでみたかったと思った。
あと、最近いくつか大正時代あたりを舞台とした現代の推理小説や他のジャンルの作品をいくつか読んだためふと思ったのだが、このあたりの時代設計の作品が最近多いような気がするのはなぜだろうか?
推理ものの観点からすると、物語にもでてくるように江戸川乱歩がこのあたりから活躍し始めて推理ものというジャンルが活発になり始めたから?
それとも大正ロマンや大正モダンなどと言われたりする西洋文化と日本文化が融合し始めたこの時代の独特な雰囲気が、今を生きる私たちにとって魅力的に見えるからだろうか?