柿村将彦のレビュー一覧
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自身の身の丈では思いの全ては叶えることが出来ない、抗うことの出来ない運命。日々の生活の中で感じることでもある話であり、長くを見れば人の一生も同じようなものだと思う。この幸せが未来永劫に続けば良いと思う時があるがそれは叶わない話。
ファンタジーであり、ホラーであり、シュールであり、ユーモアでもあり、登場人物は、立場・環境の違いがあり、さまざまな思いや考えから色々な行動を起こすため、それぞれに妙な人間味を感じた。
読む人によって、様々な捉え方、感じ方が出来そうな話だ。私は切ない気持ちになってしまったので次は明るい気持ちになる小説を読もうと思ったが笑、読み終えて、一日一日を大切にして、前を向いて、 -
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本作の読みどころは、日常では「悪」と見做される行為が、日常が崩壊したそばから仕切りを失って主人公の行為に雪崩れ込んでくるところにあると私は感じた。淡々としているところが、逆に凄まじい。だから、主人公と一緒に、自分の倫理観も麻痺していく。報復、暴行、火付、殺人。つくづく、「善行」なんてものは、極めて条件付きの世界でしか航行できないやわな船なんだと思わされる。
ファンタジーノベル大賞は、私の中ではまだ信頼できる賞モノのひとつ。酒見賢一氏しかり、森見登美彦氏しかり。今回もいい感じ。読み手に媚びてない作品は、よい。含みの多さも大いに歓迎できる。地名の消滅、自治体の消滅、死の遠さ、余命宣告を受けた後の生 -
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ネタバレそうか、こういうの、ファンタジーか。
妖怪話だけど、海外から見ればファンタジーなんだな。
でも帯に書いてる「ディストピア・ファンタジー」は嘘だろ。どこがディストピアやねん。
そして、フシギ系ファンタジーではなく、どちらかと言うとかなりのホラーだった。
グロいとかびっくりとかそういうのではなく、淡々と静かに、存在について考えてしまう怖さ。和風ホラーですねぇ。
そして、色々な点が説明ない系でもあるが、これこそまさに昔話というか民話というか、とにかく良い。
本屋で衝動買いして、帰りのマクドで1時間ほどで一気に読み終わってしまった。
姉がいなくなるときも怖いが、主人公が姉を襲った相手を角材3本 -
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ネタバレ「私たち丸呑みにされちゃうらしいよ」「そっか、じゃあ宿題やっても意味ないか」とズレた倫理観のままふわふわと話が進んでいくかと思うと、起承転結の転のところで急に「なんで大人しく受けいれてるんだ私は、変えられないと思うものでも変えてしまえばいいんだ!」と思い、「じゃあ殺すか」と極端な破壊行動に飛びつくあたり情緒が安定してなさすぎる。
かと思うと、結局やる気になったからといってなにが変わることもなく、逆に諦めとか受け入れとかそういう負の方向の劇的な変化もなく、すっと幕が引かれていく。
読み終わっても権三郎狸という不気味な存在があまり不気味に感じられないという不気味さがあっていいなと思う。 -
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祖父から聞いていた、「権三郎狸」の話では、美しい女が巨大な狸を村につれてきて、村の人々を次々と丸呑みにし、誰もいなくなった村に火を放ち、何もかも焼き尽くすのだという。5月はじめの連休、はじめは友達の綾子からの電話にあわてて駆けつけた。権三郎狸が現れたという。信楽焼の狸の置物のような狸を連れた女性あかりによると、5月30日に村の人達を飲むことが決まっているという…。
おそらく新人の作家で、ネット感覚の言語感のため、非常にスピード感のある文章である。時々主語が飛んだり、てにをはが抜けたりするも、それほど読みにくいと感じない。
ほのぼのアニメの原作のような話かいなと読み始め、途中までは「あ、私達 -
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いやあ凄いものを読んだなあと。活き活きと細部が描かれ、生活の匂いが行間から香り立ちそうなほど艶めかしいのに、ちょっと離れて全体を眺めようとすると、薄ぼんやりとした霞に包まれてしまう感じ。なんとも不思議な読後感。分かるけど分からない。分からないのに分かる。明晰夢な白昼夢を見ていた気分。
うまく言葉で感想をまとめることが出来ないけど、この作品を長編としてまとめ上げた手腕の見事さに舌を巻く。くどくどと長ったらしい感じを微塵も感じさせず、読後感は短編を読んだ時のそれに近い。
おそらく、これを映像化するのは大して難しくはないと思う。ラストだけCGでちょいちょいとやればいける。ただ、この作品の根幹と -
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ネタバレあと一か月で村ごと死ぬことが決まった人々は・・・
というお話。
設定からしてものすごく暴力的ですが、どこかコミカル、ときどきファンタジック、全体を覆うホラーなカンジが面白かったです。
ズバっとネタバレしてるわけではないんですが、死ぬこととか生きることとかについて、人様におしらせするようなものでもない気がするけど、この本を読んで考えてしまったので書いてしまいます。
あ、でもやっぱネタバレしてますね。あはは。
なので、この先はうっかり読んでしまわれませんように、どうぞ。
信楽焼の狸にそっくりなバケモノと綺麗な女の人がやってきて、一か月後に村全体を丸呑みにするという。
その時点で村にいた人は -
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ネタバレあっさりと読めるが、記憶に残る作品。祖父から聞かされた昔話が導入で示されるが、それがリアルです。
「あとひと月で死ぬ」そう予告された村人が死を受け入れている様子が、リアリティに欠けると思いますが、村外出身の人達の取り乱す描写が、主人公が抱いた感想に通じるこの村の異質性、そして村と外の世界が違うということを表現しているような気がしました。
特にあちこちに信楽焼のたぬき置物が隣町には置いてある描写。「逃げられない」というのは、この信楽焼たぬきの置物が監視しているから?何故これを置くんだという主人公の指摘に、はっとした。もしかしたら、他の世界には、私たちが伝承で恐れている化け物、妖がマスコットのよ