土屋隆夫の有名作品でよく使われるモチーフだけど、現実では果たして…。
AIDとは無精子症など男性不妊に対する生殖医療の手段で、非配偶者の精子を使った人工授精のこと。そうして生まれた子供が主に成人後自らの出自を知り、現行制度では生物学上の父親について知るすべがないため苦悩する姿から、男性不妊に起因す
...続きを読むる不妊に苦悩する夫婦や、精子を提供した元慶應医大生から、不妊治療を諦めた夫婦、養子縁組制度(5人も!)を選んだ夫婦、医学界でも様々な現状の問題に奔走する方々へのレポがバランス良く章ごとにまとめられている。
これ、良く書けているノンフィクション(ルポタージュ)だと思うけど、作者が既婚子持ちの女性ということで、「他人事間」が気になった。鼻につくとまでは言いませんが。書き手の中立性は大事だけど、もっと熱い筆致でもいい。星一個減点です。
男性が書き手だったら書き方や読後感が随分違っていたような気がする。私が男だからかも知れないが。もう少し書き手の怒りや個人的意見や提言や主張が前に出てもいいんじゃない?
それにしても、AIDを始めた慶應大学病院や以降の他の病院のやり方はひどいな。不妊に悩む夫婦にしろその子供へのメンタルケアにしろ。慶應系医療従事者へもっときついツッコミが聞きたかった。
読んでいて腹立たしいのが、法整備が余りにも杜撰なこと。少子化対策が話題になって久しいのに。この本が出た後で国会審議や医学界では「出自を知る権利」への対策は進んだのだろうか?
海外ではちゃんと父親が誰か開示請求が出来るようになった国もあるらしい。日本国内でももっとこの本の中で苦悩する人々へのケアが論議されるべきだろう。
最後の方では家族の在り方や子供を持つこととは何かへと話が大きくなって行く。ここら辺の書き方はあっさり。
女性不妊に比べ男性不妊は研究が進んでいないそうだが、女性不妊症についても自分は知らないなあと思わされた。私が独身のせいもあるが。最近は「ブライダルチェック」という言葉も知られて来たけど、結婚前に男女共に不妊症でないか調べることは大切なことなのですね。
この本と合わせて、ちょっと違った観点からか書かれた小堀善友さんの『泌尿器科医が教える - オトコの「性」活習慣病 (中公新書ラクレ)』もオススメです。もっと男性側の苦悩が生々しくもユーモラスに書かれてます。