2040年、能力を拡張されたトランスヒューマンが世の中に現れ、根本的に異なるポストヒューマンももう次のステップとして見えている時代を舞台にしたSFスリラー。
民主主義国家のアメリカにおいても、ポストヒューマン技術が取り締まられる時代となり、「他人と精神的に繋がる」ナノマシンを生み出した大学院生の主人公が、FOXドラマ的なジェットコースター展開に巻き込まれていくというストーリーです。
いやもう、舞台装置も素敵だし、著者はMS社のエンジニア出自。なかなかに練られた、「もし人と人とがネットワーク経由で直接繋がったら?」が味わえます。好物です。ちょっと攻殻機動隊っぽいですね。
個人的には、「脳内OSなのに立ち上げに時間かかるんかーい!」というツッコミは入れざるを得ないのですが、それでもシーケンスのそれっぽさ等々はやはりMS仕込みなのかしら。
そして、肝心のストーリーやキャラがしっかりと面白い。やっぱココでも米中対立なんだなぁと思いつつ、まぁあり得そうだなぁと思う展開を持ってくるのは、ノンフィクションライターも務めた著者の力量でしょうか。
ここは著者の意思が入っているんだと思うのですが、アメリカはポストヒューマン技術を過度に規制した結果、他国で違法な技術として裏で出回ってしまい、怪しい薬物と同じような扱いに…。
たとえ人としてのあり様を変えてしまう可能性があるとしても、技術の進歩をどう扱うべきなのか。。著者の方向性は間違いなくオープンにして広めていくべきというもので、逆に本著では、そうしないとこうなるぞ、という姿が示されています。
上巻では、中国に対してちょびっと好意的な扱いが示されていたようにも思うのですが、さて下巻ではどうなることか。。
しかしこの舞台装置、面白さが先に立つのですが、こういう世界って要は「テレパシー」とその先の精神的共感・操作がセットになったものなのだと思います。
凄さとその恐ろしさを感じつつ、ただ、コレって誰しもが「こうできたら良いなー」的な妄想を抱くコトなんだと思うのです。
これが一方的な支配/従属の関係にならず、共創に繋がるものであると良いのですが…「みんなのネットワーク接続」がどこに帰結するのか、下巻も楽しみです。