亀田達也のレビュー一覧
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全172ページのうち、115ページまでタイトルにある「モラル」という言葉が出てきません。それは、実験に基づいた科学的検証にたえうる事実からモラルの起源を導こうとしているからです。
第2章で社会性昆虫の集団意思決定の仕組みについてとしてミツバチの例を挙げ、「ミツバチの巣探し行動には、集合知(collective intelligence)が見られる」(p.29)と述べています。集合知がうまく働くには、「行動の同調」と「評価の独立性」が組み合わせられることが必要なのだということです。
そしてヒトの場合の集合知について、音楽ダウンロードの実験を挙げて比較しています。ヒトの場合は他の人の評価に影 -
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ヒトが人として存在しているというのは,どういうことなのか? 社会的な存在としての人は,ヒトが生き残っていくために,どんなはたらきをしてきたのか。
「実験社会科学からの問い」という副題のある本書は,進化の過程を経て現在の社会を作っている動物の姿を通して,ヒトの進化という視点で人の社会を見直すと何が見えてくるのかを明らかにしてくれます。
人の道徳や倫理といったことを進化の視点で見たことはなかったので,私にとっては新しい発見のある本でした。
同類の本も出ているようです。
「進化ゲーム」の話を読んでいると,国によって支配する道徳が違っていることも,うなづけます。
今,民族間・宗教間の -
Posted by ブクログ
「生物学では、生き物を「適応」のシステムと捉える立場が主流です。」
他者と「社会」を構成することで、生き残ってきたヒトが、「社会」に適応した個体を結果して選択して残してきた、遺伝的な形質とは何か。
自動的に動き出す遺伝的形質が最適に働く社会のサイズと、現代の社会のサイズの違い。
幾世代を経ないと、遺伝的形質の変化は期待できない。
しかし、手動モードである功利主義的考え方を、意識的に取り入れることで、急激に距離が近くなってしまった社会と社会の摩擦を少なくすることができるのではないか、というのがこの本の要旨かと思う。
年をとると、これまでの経験などからか、他者との関係性にある程度、規範意 -
Posted by ブクログ
スタンフォードの囚人と看守の実験が非常に興味深く、そして人間の怖さが垣間見れる。人は"与えられた役"をまっとうする。看守の役割を与えられた人は看守役になり、囚人役の人は囚人を演じる。しかし、囚人は精神的な苦痛を伴い実験に耐えられず脱落者が続出。そして日を追うごとに看守の暴力や虐待がヒートアップ。6日間で実験中止となったそう。行動しているうちに、思考すらもその役割に染まっていく。精神科病院での医師らによる患者への恐ろしい虐待が問題となった件は、このような心理的な作用が関係しているのかもしれないと思わされた。環境が人を作る。身にしみて感じる。