こうやって、一から十まで自分の力で描いた作品が、一冊の本となって世に出た以上、もう、こう君ではなく、うさきこう先生と呼ぶべきだろう
本人が最も喜んでいるだろう。その次に歓喜しているのが、師匠の新井先生だろう。きっと、お母さんや恋人も喜んだに違いない
何より、私ら漫画読みも嬉しい。『性別がない!』と言
...続きを読むった、新井先生のエッセイにほとんど、アシスタント兼ツッコミ役として登場していたこう先生が、コツコツと努力を重ねていたのは知っていた。なので、本当に、こう先生の漫画を読めるのが嬉しい
漫画読みとしての信念に沿って、正直な感想を言うが、漫画としての質は、まぁ、普通だ。面白い、それは確かではあるが、先に述べた悦びを差っ引くと、「まだまだだな」と思うレベルではある
内容と言うより、ちょっと古い少女漫画を彷彿させる画風で、やや抵抗を覚える人はいるかもしれない。なかとかくみこ先生の『塩田先生と雨井ちゃん』も、同じように古風なテイストだが、人気は高く、多くの漫画読みに受け入れられている。それは、なかとかくみこ先生の方が、実力があるからだ
こればかりは、今のこう先生じゃ、どうしようもない差だ。けど、今後、差が縮まる可能性は大だ・・・・・・立場が引っ繰り返る、とは断言できないのが辛いけども
ここまで、ちょい辛めの事を書いているが、この『ぼくのほんとうの話』の感想を、読んで書こう、と思った理由はちゃんとある
真っ赤な嘘偽り、大袈裟な誇張もされていない、酸いも甘いも、喜怒哀楽、「楽しい」も「悲しい」も、ひっくるめ、ごちゃまぜにした、素の本当が、この『ぼくのほんとうの話』にはあるからだ
画風や話の構成、そういう必要な小手先の技の優劣をすっ飛ばすだけの、熱量が宿っていたからこそ、私はこの漫画の感想を書かせてもらおう、と思った
一人の少年が、一人の少年に対して抱いた、純粋、それゆえに儚く、相手に伝えられず、誰にも打ち明けられない、それが自身の心に事ある度に小さな傷を刻み、重ねていく恋心・・・・・・
そんな切ない初恋の「本当」が、テクニックに頼らず、ストレートに表現されている。粗削りだからこそ、人の心を理屈抜きで打つ、そういうものだ
実際、描いていて、辛い思い出が蘇ってくる瞬間もあった、と予想される。それでも、妥協せず、その「悲しみ」もありのままで表現されている
ちょっと言い方はアレだが、腐女子は読まない方がいいかもな、と思った。コウ君の放つキラキラは、目を焼き、澱の溜まった心を洗い、熟成している性癖を浄化してしまう可能性があるw
まぁ、冗談はさておき、私はこの『ぼくのほんとうの話』は図書室もしくは保健室に置くべきだ、と思う。まぁ、教師が先に読んでから、だが。この手の作品を読むべきは、今、現在進行形で悩んでいる子供だけでなく、その子供らを守り、導く役目にある教師だ
教師が、自分の中の「男は女、女は男を好きになるのが当たり前」って考えを取っ払ってないのに、同性愛に対して偉そうに授業で語るなどおこがましいって話だ
もちろん、気持ち悪い、理解できない、と思うのは、個々に考え方が違う人間なら仕方ない。ただ、その嫌悪感を、自分がおかしいんじゃ、と苦しんでいる子供らの前で出して、傷つけるのは、教師失格だ
自分と同じ性の相手を好きになる、これは特別でも、異常でもなく、その子にとっては「普通」なのだ。学校ってのは、本来、自分の持つ「普通」が迫害されるものではない、これが自分らしさなんだ、と思えるようにしてやるべきだ
一方的に欲望のままに傷つける、未来のない暗闇の中で互いに傷つけあう恋愛は論外にしろ、同性愛が誰か、社会の害になるとは、どうにも私は思えん
思えないお前がおかしい、と言われちゃ、それまでだけど、人が誰かを愛する際に「性別」も障害になり得ないって考えで、私は生きているので、結局のとこ、同性愛は特に意識もしない事なのだ
ぶっちゃけ、私自身が、同性愛より嫌悪されそうな異常性癖を抱えているもんだから、同性愛くらい、大した事ないだろ、と思ってる節はある。別に、下に見ている訳じゃないので、誤解なさらぬよう
やや脱線してしまったが、この『ぼくのほんとうの話』には、こう先生の魂の一部が籠められている。それに触れられ、糧にさせてもらった事には感謝している。また、ちょっとだけ、漫画読みとしてのレベルが上がった気がする
アシスタントと漫画家、その二足の草鞋を履いて歩くのは大変だろうけど、こう先生は独りじゃない。自分の価値観を尊重し、個性を認め、成長と変化を促してくれる誰かが、そこにいるってのは、一漫画家として大きな武器になる。もちろん、人間的にも大きくなれるチャンスがあるってことだ
きっと、次回作は、この作品を越える、読み手のハートを激しく揺さぶるものになる、と期待して良いだろう
どの回も、トキメキに満ちているが、個人的にグッと来たのは、第8話「嘘つきな僕と空飛ぶ蝶」だった。嘘を吐かない、それに越した事はない。正直に生きるのは大変だが、気分は良い。ただ、自分に対して吐いた嘘の痛みが、人を成長させるって側面を持っているってのも事実である。自分らしさを保つ、それは簡単なようでいて、難しい。けど、自分らしく生きるのは楽しい
この台詞を引用に選んだのは、うさきこうって人間が見えたような気がしたからだ。さよなら、この言葉には、こう先生の本心からの感謝が宿っている、と私は感じた。後悔はある、けど、自分を悩ませ、迷わせ、苦しめた、成就せぬまま終わった初恋に、こう先生は感謝もしているんだろう。だから、この作品が先生の中から生まれた。それに対し、私もまた、感謝したい
しら