大治朋子のレビュー一覧
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パレスチナとイスラエルについての本は何冊か読んだが、今まで読んだ中では、この本が個人的に一番いい本だと思った。とてもいい本だし、とても大事な内容なので、重くて暗い気持ちになるかもしれないが、本当に多くの人に読んでもらいたい。という気持ちをこめて、星5。
パレスチナ人とイスラエル人のどちらの味方にも立たずに、リベラルな視点で物事を捉えようという努力が感じられる。様々な人種や立場の人に話を聞いたり、色んな現場に実際に足を運んでいる。
最近はイスラエルに対する批判的な文章ばかりが多くて、他人のフィルターを通した後の出来事を読まされている居心地の悪さを感じていたのだが、この人はしっかりと、パレスチナの闇も、イスラエルの光にも焦点をあてて書いている点がとても信頼できる。
そんな著者だからこそ、様々な取材や出来事を通してイスラエルに対する怒りの気持ちで我を忘れるようなことがあったと書かれていることがとてもリアルで共感できた。
イスラエル人は人懐くて、初対面の外国人や隣人を家に招いて夕飯を食べたり、議論するのが大好きだとか、そんな一面を初めて知った。
すぐに解決するのはとても難しいと思うが、この問題に目を背けることは絶対にしたくない。自分に出来ることを探し続けようと思った。 -
Posted by ブクログ
「パレスチナ問題」についてよくわかる教科書的な一冊。
イスラエルの成り立ち、ユダヤ人の歴史、ユダヤ教の考え方、ネタニヤフの振る舞い、アメリカとの関係など、一般的なニュースではなかなか解説のない基本的な知識が揃う。
また2025年最新の情勢も踏まえ、イスラエル人へのインタビューを通してハマスによる攻撃、ガザへの侵攻に国民はどう感じているかも取材。
情報量が多く読書慣れしていない人にはややヘビーながら、この手の本の中では比較的読みやすい文体で、また章立てがとても細かいので、ちょくちょく休憩を挟みながら、また隙間時間に少しずつ読むこともできる。
最初に教科書的と書いたとおり、少しは著者の感じたことも交えるものの、概ね事実とされるものが書かれており、解決策の提案などはあまりなく、読後少し暗い気持ちになるかもしれない。
著書も言っているが、この本を叩き台として考えたりわかり合ったりしていくものだと思う。 -
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ナラティブ というと、仕事柄、「業務記述書」なんて無機質な言葉に変換していたが、ここでの意味は本来の「語り」「物語」を網羅したもの。
そしてこのナラティブが力を持っていることを、事例を挙げて紹介してくれている。
特に印象深いのが伊藤詩織さん。安倍首相のお友達のTBSの関係者にレイプされ、
泣き寝入りも考えたが、自分の可愛い妹のために立ち上がったと。
自分より弱く、マスコミにもいない妹がこんな目に合ったらどうしようもない、
であれば自分は闘う!と決めたと。
そのナラティブに力がないわけがない。
自衛隊五ノ井さんの例も出ていた。ここの記述はすくなかったが。
二世信者、小川さゆりさんも。
その人の言葉で語ることのパワーの大きさ。
むろん、最初はなかなか通じない。訓練が必要。それは立花隆さんが語っている。
そして読書。想像力を高める効果のある読書は、ナラティブに有効だ。
自分も次世代に何かを残したいと思う。そのためにはナラティブを信じよう。 -
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本書は「なぜテロリストが誕生するか?」ということをジャーナリストである著者が研究し、記した本である。
著者はテロを研究する以前は、
もし自分が将来テロを起こす可能性があるか?
という問いには
自分は100パーセント無い
と答えることができると思っていたそうであるが、テロリストを研究するにつれて、人間は誰もがテロを起こす可能性があると思うようになったという。
しかし、同じ環境に置かれても全員がテロを起こすわけではなく、そこにはテロを「起こす人」と「起こさない人」がいる。
ではその違いはどこから発生しているのか?
それを細かく研究し、本書にはその結論が書かれている。
その違いの一つは、他者に救いを求めることができるスキルを持っているか、持っていないかということである。
そんなこと誰でもできるだろうというかもしれないが、人生で成功してきた人間こそ、他人に助けを求めるということは難しいのである。
また本書では、人間の暴力性についても記されている。
人間の暴力性はもともと誰もが持っており、それは実験でも証明されている。
スタンフォード大学での有名な実験で、フィリップ・ジンバルドー博士により実施された『監獄実験』というものがある。
この実験は無作為に選んだ白人の男性をくじ引きで二つに分け、一方のグループは看守役、もう一方のグループは囚人役を演じさせたのであるが、実験中にあまりに看守役たちの行為が過激にエスカレートしたために、実験途中で中止となったという実験であった。
その他にも数多くの研究結果等が論じられているが、この分野については、まだまだ研究途上であり、著者は独自に研究を進め、みずからその結論に至っている。
見事である。
本書は、テロを起こす人間、そしてそれを防ぐ方法が書いてある学術書であるが、著者がジャーナリストから学者へ移行していく手記としても読むことができる。
非常に興味深い本であった。 -
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今年読んだなかでもっとも印象的で刺激的。
イスラム過激派の研究を通して「いかに普通の人が過激化していくのか」を解き明かしていく。
これは遠い異国の硝煙にまみれた戦場の話ではない。「一般人」を自認する我々全てが過激化する可能性を秘めている。
アメリカの大統領選からジェンダー間の軋轢、果ては「お箸の持ち方」まで、現代は正義と正義のぶつかり合い。味方か敵かの二元論ばかり。Twitter初期には落語の長屋のような関係だったTLは、今や肥大し辻斬り御免のスターリングラードに。
最近のこの世相はなかなかしんどくて、世の中は「白黒ハッキリバッサリ切るひと」が威勢がよい。
“外的なストレスを受けると、ひとは衝動的に世界を内側と外側に分ける。つまり敵と味方”
“そして味方を称賛し敵を蔑める物語(ナラディブ)を語る”
本文中でも言及されているが、これはヘイトスピーチへ繋がり、そして歴史を自分に都合の良い神話として利用しようとするプロセスそのものだ。
最も秀悦な点は過激化のプロセスを「バランスシート」で表していること。
人はストレスを受けると、その負債を補うために資産を利用する。通常、その資産は家族愛、コミュニティの関係であったりするが、これらのリソースが枯渇している場合、人は負債を補うために負の資産を消費する。それはドラックであったり暴力であったり、また神話として作られた物語であったり。それらをドーピングのように使って自尊心をブーストするのだ。
今の社会のこうした息苦しさを感じているひと、孤独を感じているひと、家族が悩んでいるひとは是非本書を読んで欲しい。
繰り返しけどこれはエキセントリックな思想を持った少数の例外の物語ではない。我々すべてに当てはまる写し鏡であり、そして今の世界は急速に過激化の方向に閉じつつある。
その隙間から久しぶりに空を見たような読後感。 -
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2001年のニューヨークでの大規模テロを受けてアメリカはアフガニスタン、そしてイランへと派兵し戦争を継続してきました。軍事力の質・量では圧倒的な米軍が大きな犠牲を払っても勝利を得られない現実を様々な角度から報告する1冊です。4部構成となっており、1章は帰還兵が直面するTBI(外傷性脳損傷)と呼ばれる爆風によるショックが生み出す脳機能への影響、2章は米軍と戦争を報道するメディアとの関係、3章は著者によるアフガニスタン最前線での従軍取材記録、4章はアメリカが本格的に導入した無人機による弊害、について詳しく述べられています。
装備がより充実し兵士の死傷率が下がる一方、以前であれば命を落としていたような衝撃を受けても命を落とさなくなった結果、慢性的な頭痛や疲労、記憶障害を併発し、自殺の増加や社会復帰できない帰還兵が激増しているという現実は、戦場に兵士を派遣すれば避けることができない事実であると感じます。
本書のタイトルにもありますが、質・量で圧倒的なアメリカ軍がアフガニスタン、イラクのテロ組織を相手に決定的な勝利を得られない構図として、戦う相手が正規軍でなく、戦場とそれ以外の区域の境界が明確でないことが挙げられています。
現地に駐留するアメリカ軍としては、現地民間人の世論は何としても味方につけて「アメリカ軍はテロ組織から民間人を守る」という意識づけを試みますが、民間人に紛れ込んだ武装組織メンバーからの攻撃を繰り返し受けるうちに、民間人の誤爆や巻き添えを生み、次第に敵視されるようになります。
これら現地に派兵することで発生する諸問題を解決する切り札として投入された無人機ですが、宣戦布告もなく、また現地政府に無断で武装組織の要人を殺害する手法は、主権侵害との誹りや、無人機での誤爆も引き起こし、アメリカに対する反感を増長する結果をもたらしています。特にCIA主導の運用では、誰をどういう容疑で殺害したのかといった重要な事実が安全保障上の機密として公開されないケースが多く、恣意的な運用を疑われる温床となっており、これは今後、中国が無人機を広く運用した場合に付け入る隙を与えているとも言えます。
アメリカとしては武装勢力を一掃した後、現地の人による統治、治安維持の道筋をつけてテロリストの温床とならない国づくりまでを目指したのですが、GHQが日本の民主化に成功したのとは異なり、長年紛争地域であったアフガニスタンでは国としての成り立ちが脆弱で、識字率の低さや、道路などのインフラの不足など様々な問題から成果は上がっていない現実が述べられています。
本書は2012年に発売となっており、その後のイスラム国の盛衰や、アメリカとイランの対立には言及していませんが、本書で危惧されている事がまさに現実となっている感があります。
また、最前線の従軍取材紀は著者が乗車したアメリカ軍装甲車が地雷を踏み、その爆発に実際に遭遇した様子など、非常に臨場感あふれるルポでした。
著者はジャーナリストとして数々の賞を受賞した毎日新聞の記者であり、本書も根気よく様々な情報源にあたり執筆されている印象を受けます。本書で取り上げられているアメリカ、イラン、アフガニスタンだけではなく「持てる国」と「持たざる国」の対立の構図を理解するにあたり、非常に情報量も豊富で説得力のある1冊であると思います。 -
Posted by ブクログ
【アメリカのジャーナリストの少なからずが、「自分の信じる道を好きなように進みたい」と願うのに対し、日本人記者の私自身はもっと安全で、計算された旅を好んではいないか】(文中より引用)
リーマン・ショックに伴う不景気、そしてインターネット・メディアの台頭といった荒波をかぶりにかぶった米新聞業界。急速に進むジャーナリズムの変革の様子を取材した作品です。著者は、2010年度にボーン・上田記念国際記者賞を受賞した大治朋子。
著者自身が自分のこととしてジャーナリズムの行く末に問題意識を抱えているためか、焦点が極めて明確かつ掘り下げが十分になされている一冊でした。変化にあくまで前向きに対応すると同時に、「ジャーナリズムとは」という本質を明確にしたプレイヤーが生き残り続けているのかなとも感じました。
たしかに米メディアの多様な選択肢には驚かされます☆5つ -
Posted by ブクログ
著者が毎日新聞のワシントン特派員であった時に、
①負傷兵へのインタヴューを通じて外傷性損傷という見えない傷
②従軍取材でみた基地の日常を通じてメディアがうまく米政府に利用されているか?のレポート
③従軍取材時に即席爆破装置による被爆体験と「持てる者」と「持たざる者」の間で繰り広げられる泥沼化する非対称戦争の問題点の指摘
④ロボット時代の幕開けにより無人偵察機&爆撃機による戦争の意味の変容が民主主義では止めようがないほど暴走していることを通して「終わらない戦争」の始まり
などを克明に記述した非常に興味深いルポです。
個人的には、ノーベル平和賞をとったオバマ大統領に対する評価が、軍人であったセオドア・ルーズベルト大統領に近い非常に戦争に積極的であるとの記述が、積年の疑問に答えてくれました。
おもにアフガニスタンとの戦争を中心に、イラク戦争、パキスタンへの爆撃についての問題点も的確にまとめられており一読に値する一冊です。 -
Posted by ブクログ
イスラエル(ユダヤ人)を主題にした本はイスラム諸国(アラブ人やペルシャ人)を主題にしたそれよりかなり少ないはず。今回探していてそう思った。
勿論ホロコーストの被害者や一種の陰謀論の主役として扱われる事は多いが、国家としてのイスラエルの現状(何故周辺諸国より一頭地を抜く軍事力を持つのか)や、今を生きるイスラエルのユダヤ人(他国に住むユダヤ人ではなく)の姿を取り上げた本はなかなか見つからなかった。
本書は現代のイスラエル(に住むユダヤ人)の姿を網羅とまでは行かないものの、一定程度描き出した一冊となる。願わくはこれに続く類書が次々ど出て来て欲しい。
二千年以上の反目は二千年以上かけないと消え去らないのか。そう思うと絶望して来る。
ジュンク堂書店近鉄あべのハルカス店にて購入。