新規事業立ち上げに興味があったので購入しました。
本書は以下の章立てで構成されています。
第1章 なぜ今、新規事業の立ち上げが必要なのか
第2章 新規事業のタイプとその特徴
第3章 新規事業でどこに一歩踏み出すかの戦略立案
第4章 ビジネス・チャンスの見つけ方とアイディア出し
第5章 競合の中で勝つという発想
第6章 アライアンスが新規事業立ち上げの切り札だ!
第7章 アライアンス・マトリックスと提携成功の秘訣
第8章 資金投入の仕方と撤収条件設定の大切さ
第9章 新規事業チームの構築と実行のポイント
第10章 新規事業の成否は結局、営業力で決まる!
第11章 新規事業立ち上げに最低限必要な財務知識
第12章 事業計画書(ビジネス・プラン)の作り方
第13章 「ビジョン」と「行動指針」による新規事業の推進
第14章 次代を切り拓き、継続的な発展のために
中小企業における新規事業開発の指南書、という印象を受けました。記述の内容を実行する上である程度フットワークと柔軟性が必要になるであろうと感じたためです。
しかしどんな企業であれ必要なエッセンスに変わりはありません。
内容の要約については他のサイトに任せるとして、個人的に印象に残ったポイントは以下の点になります。
①新規事業を定期的に生み出していかなければ尻すぼみになる
②戦略的に新規事業を考え、実行する
③アライアンスは積極的かつ戦略的に
④ビジョンとの整合性と事業ドメイン
①新規事業を定期的に生み出していかなければ尻すぼみになる
一般的に、新規事業は企業の収益増のために実施するもの、と考えられていると思いますし私もうそう考えていました。
しかし著者は違った視点でとらえています。
現在はその傾向がある程度収まったように見えるものの、経済のデフレ基調がまだ残っている。デフレにより物価は下がる。つまり売り手にとっては今までの売り上げが目減りする。既存の事業でかつて上げていた収益を今後も期待できるとは限らない。
また技術進化や買い手の嗜好性多様化により、商品・サービスのライフサイクルがスピードアップしている。そのためある商品の今月の売り上げを、来月も期待できるとは限らない。
このような状況下では既存事業のみに頼り続けるというのは危険性が高い(頼る既存事業の数が少なければ少ないほどリスクはより大きい)。それよりもむしろ、新しい収益源を定期的に生み出すことで企業収益は安定する。そのように著者は主張します。
②戦略的に新規事業を考え、実行する
何も考えずにとっつきやすいものに手を出して事業を始めてもうまくいかない。
まずは自社の強みを生かせる事業を考える必要がある。
発想の転換で、自社の強みを生かせる領域は広がる。
例えば格安航空会社(LCC)のビジネスモデルは、サービス性は特にないが安価なコーヒーショップが流行っている点に着目して生まれたといわれている。一見全く関係のない業界である航空サービスとコーヒーショップであっても、ビジネスモデルと分析すると参考にできる点が見えてくる。あとはそれに自社の強みを適用できるかどうかを考えればよい。
新規事業を始める場合はスピードが大切である。いつまでも検討していても仕方がない。ある程度詰めたら素早く始めるのが正解である(結局は新しいことなのだから、始めてみないとわからないという点でこれは正しいと私も思います)。その代わりまずは小さく始めること。大きく始めると失敗した場合の損害が大きい。小さく始めて改良が必要であればこれを加え、その上で見込みがあれば大きく育てていけばよい。ただし撤退条件は明確に。
最終的にものを言うのは営業力。結局売れなければ意味がない。
多少強引でも、何が何でも売るんだ!という気概のもとで確実に売っていく必要がある。
そのためにはメッセージ性が高く、わかりやすいセールストーク・フレーズを考えて顧客に発信する必要がある。また実際に商品・サービスを具体的にプロモートする際は営業と開発の両担当者の協力体制で進めるのが効果的。
しかしテクニカルな手法をこねくっても、最終的には「何が何でも売る!」という気概のもとで、しっかり人に会って売っていく行為が必要(泥臭い行動も大切)。
③アライアンスは積極的かつ戦略的に
本書ではアライアンス(他社との協力体制)の構築を非常に重視しています。
おそらく独力での事業開発が困難な中小企業を念頭に置いているためでしょう(大企業であっても困難な場合が多々ありますが)。
自社が独力で新規事業を案出し遂行することは現実的には難しい。そのためのリソースが足りない、ないしは持ち合わせていないことが往々にある(むしろそれが通常である)ため。
ではどうするか?積極的に外部とのアライアンス(協力体制)をくみ、新規事業を実現するしかない。
アライアンスを組むことで足りない点を補い合い、そしてスピード感をもって事業を生み出し、遂行することが可能になる。
アライアンスを組む相手はどこでもよい、というわけにはいかない。
自社でやれること/やれないこと、強み/弱みを明確にした上で、足りない点・弱い点を補完できる相手を選ぶ必要がある(逆に相手が自社にとっての強みや充足点に弱みを抱えていれば理想的)。
④ビジョンとの整合性と事業ドメイン
自社が社会においてどのような位置づけになりたいのか、そのビジョンを明確にして、これに整合する事業を考える必要がある。
ビジョンと整合しない事業はうまくいかない。
ビジョンを明確にしなければ人はついてこない。何事においても、初めて始めることに抵抗感を覚える人間が必ずいる。逆に「我々はこうなるんだ!」というビジョンを社員にもしっかり浸透させることができれば、それに整合する事業におのずと人はついてくる(反対勢力にはなりにくい)。このビジョンは最終的に社員の幸福につながるものでなければならない。
それからビジョンに整合する事業ドメインを定義にする。古い事業ドメインにしがみついている企業は凋落する傾向にある。
富士フィルムはかつて「我々はフィルム会社」という定義を見直し、「我々は総合ヘルスケアカンパニー」と再定義した(定義を加えた)。
その結果、医療機器、ヘルスケア商品、化粧品などの商品を次々と生み出し、富士フィルムホールディングスの時価総額はますます大きくなっている。
一方でコダックは「我々はフィルム会社」という定義を変えなかった。その結果デジカメの普及によりフィルムの売り上げは激減し、結果コダックは経営破綻を迎えることになる。その意味で事業ドメインは環境変化に適応できるものでなければならず、その時々に応じて再定義を必要とする。
本書は、新規事業開発における考え方、生み出し方、推進方法など、一通りのアクションを網羅しており非常に参考になる1冊でした。